世界を割る
「世界を割る」第86回

第86回 「キハダコーラ」で割る

「世界を割る」第86回

大阪・梅田に「阪神梅田本店」というデパートがあって、梅田に出掛けた際によく立ち寄る。私は普段あまりデパートに行くことはないのだが、阪神梅田本店の1階には「食祭テラス」という食にまつわる催事スペースがあって、割と早いペースで内容が変わるので、「今、何やってるかな」という感じでのぞいて行くのだ。

たとえば少し前には発酵食品の専門家である小倉ヒラクさん主催の「発酵マーケット」というイベントがそこで開催されていて、私もトークコーナーに呼んでもらったりした。日本各地の発酵食品が販売されていて、それを買うのも楽しいし、食祭テラスがいいのは、(イベント内容によるが)だいたいいつもお酒を飲んでいけるスペースが設けられていて、そこで一休みするのがまた楽しいのである。

先日、食祭テラスに立ち寄ってみると、「ハーブ・スパイス・薬草 ボタニカルフードトリップ 奈良」という催しの最中であった(現在は終了しています)。奈良では古くから薬草文化が発達していて、その歴史と絡めてハーブやスパイスを使った商品を集めて販売したり、スムージーやダルバートがその場で味わえたりするようだった。今回も「ボタニカルバー」と名付けてお酒を提供するコーナーがあって、そこでクラフトジンというのを飲んだ。

何か自分へのお土産を買っていこうと思い、「キハダコーラ」という奈良産のクラフトコーラが売られていたのでそれを選ぶ。ボトルに入ったタイプもあったが、まずは試しに、と1杯分がパッケージされたものを購入した。家に帰って調べてみると、キハダコーラは奈良の薬品を扱う会社で製造されているらしく、「陀羅尼助」という昔からある胃腸薬をモチーフにしているそう。

1300年以上続く伝統薬『陀羅尼助』をモチーフにして、キハダの果実、紫ウコンをスパイスとブレンドし、レモンとかぼすの柑橘と一緒に名水『ごろごろ水』で炊き上げました

と公式サイトに説明があった。

希釈用のパッケージになっていて、それを180㏄の炭酸水で割るようにと、商品に書いてある。その通りに作り、一口飲む。ああ好きな味。漢方薬っぽいコーラだ。そしてそこに甲類焼酎を加え、改めてよくかき混ぜて飲む。うむ。これは最高のドリンクじゃないか。胃腸に良さそうだし。

それを飲みながら、頭の中には「ゆっくりと 上手に 生きる むずかしさ」という、最近「紅茶花伝」という飲み物のCMで流れている曲がよぎる。ここ最近、私の脳裏にずっとこの曲が繰り返し流れている。サビのメロディがやけに耳に残って、「紅茶花伝 CM」と検索して、それがマカロニえんぴつの「poole」という曲であることを知った。

マカロニえんぴつというバンドが人気なのは知っていたが、曲と存在とがしっかり結びついていなかった。そういえば、先日、それこそ阪神梅田本店あたりを歩いていたいたら、マカロニえんぴつのTシャツを着てタオルを首からかけた人が大勢いて、近くでライブがあったんだなと思ったばかりだった。

それにしてもこの「poole」という曲のサビの、明るいようで切ないような、こういうメロディってなんなんだろう。「色々あるけど、まあ、とりあえずやっていくしかない、と思いながら、窓の外を見ている秋」みたいな。私はこの感じが妙に好きで仕方なく、胸が心地よく締め付けられるような気がする。歌詞も好きだ。「ゆっくりと上手に生き」たいものだが、本当にむずかしい。

こういう曲って他にもあって、同じツボが刺激されるような感じがする。たとえばカーネーションというバンドの「REAL MAN」という、1999年にリリースされた曲。テンポも速いし、ノリのいい感じで始まる曲なのだが、サビのメロディ展開がちょっと切なくて、「秋だなー」という気がする。いい意味で、なんか寂しい。涼しい風の感じ。

ある時期、集中的に見返していたテレビ番組「水曜どうでしょう」のエンディングテーマの「1/6の夢旅人2002」っていう曲もなんかそんな秋っぽさのあるサビなんだよな。こういう曲は一度聞くとしばらく自分の頭の中で流れ続けて止められない。だいたい1週間ぐらいは続く。冬が始まる前の、なんかカラッとした空気としっくりくるのだと思う。

こういう、全体としては明るい感じなんだけど妙に切なさが残る曲をもっと知りたい。っていうか、そういう曲を持ち寄って聞きながらピクニックしたい。缶チューハイを飲んで、暮れてゆく空を眺めて、ほとんどみんな何もしゃべらないような、そんな会。

この秋のうちに開催しようと思う。

スズキナオ
スズキナオ
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1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。

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