世界を割る
「世界を割る」第77回

第77回 最近、缶チューハイを炭酸水で割っている

「世界を割る」第77回

タカラの「焼酎ハイボール」シリーズが好きでよく飲んでいる。いわゆる“缶チューハイ”なのだが、缶チューハイならだいたいなんでも同じということはなく、コンビニやスーパーで今やかなりたくさんの種類がある缶チューハイ類の中でも、他にない個性を感じるのがこの焼酎ハイボールシリーズなのだ。

とにかく甘くない。キリッとした後味。「ドライ」「レモン」が代表格で、シリーズにはその他に色々なフレーバーがあるのだが、たとえばその中の一つである「ラムネ割り」というのなんか、名前だけ聞いたら甘そうなものなのに、全然甘くない。ラムネの風味はたしかにあるのに甘くない。シリーズ全体、どれもすっきりした後味に仕上げてあって、そこにメーカーのこだわりを感じる。

この甘くなさがクセになってしまうと他のメーカーのチューハイになかなか手が出ず、いつも焼酎ハイボールばかり飲むことになる。「チューハイ買おう」とコンビニに寄って、その店の品揃えの中に焼酎ハイボールが無かったら、申し訳ないが別のコンビニへ向かう。次の店にもない、また次もない、という場合など、気づけば一駅分歩いてしまっていたりする。他に代えがたいものなのである。

焼酎ハイボールシリーズはどのフレーバーでもアルコール度数が7%と、若干高めに設定されている。だからこそグッとくる飲みごたえがあるわけなのだが、メインのラインナップとは別に、アルコール度数が5%の、番外編というか、ライトバージョンの商品が少しだけある。公式サイトを見るに2024年1月現在、「特製レモン割り」「特製サイダー割り」「特製グレープフルーツ割り」の3つが5%シリーズとして販売されているようだ。

7%の方は缶のカラーがゴールドで、5%の方はシルバー。大型リカーショップに行くとよく売られているのだが、コンビニやスーパーではそれほど頻繁に目にするわけではない。たとえスーパーで売られていても、冷蔵ケースとは別の、箱ごと常温でストックされているようなコーナーにあったりして、なんというか、主力商品という扱いではないようなのだ。が、私はこの5%シリーズの軽めの飲み口が最近特に好きだ。

でも先述した通りなかなか売られていないので、どうしようと考えた挙句、7%の方を買って炭酸水で割って飲むことにしてみた。そのようにしてみて気づいたことなのだが、これなら5%どころか、いくらでも好みの薄さにできてしまうわけなのである。

もちろん、7%の感じを味わいたい時も多いのだが、家でだらだらと簡単な作業をしている時など、気分的に薄いチューハイがちょうどいいのである。

グラスに焼酎ハイボールの7%のシリーズを注ぎ、そこに炭酸水を加える。焼酎ハイボールが3に対して炭酸水が7ぐらいの割合か。薄いのでグイグイ飲めて、そもそも炭酸があるところにさらに炭酸水を足しているからなのか、かなり強炭酸となって爽快感もある。いつもよりスローなペースで酔っていける感じで、最近はこれでいい。

「世界を割る」第77回

さて、この原稿を書いているのは1月9日で、1月4日と5日(木・金曜だった)に会社を休んでその後の連休につなげた人でも、多くが今日から仕事をし始めているようだ。正月は完全に終わった。今年(2024年)は年始から能登半島地震のニュースがあって、今もその被害の全容が見えていないような状況で、被災地から離れた場所にいる自分ですら正月どころじゃない気分であった。どのように過ごしていても時間は確実に経っていて、もう1月9日だ。

私はいつからか、月日のスピードに急き立てられる感覚が強くなってきて、正月とか桜の季節とかがすぐ来てすぐ去っていくのが辛く感じるようになってしまった。まあそんなことを言いながら、あれこれかこつけて「正月だ!」「花見だ!」とそのたびに酒を飲んではいるのだが、処理すべきことが未着手状態で積みあがり、停滞したまま時間がどんどん経っていくのは気が重い。

だからここ数年は正月のことを半分ぐらい無視するようにしている。「ああ、正月ですか?どうもそうらしいっすね」「へー、正月、終わったんですか?気づかなかったな」みたいな感じで、しらを切って半目で見ているというか。そして、逆に正月が完全に終わってからも知らんぷりで、「2月の前半ぐらいまでは正月でいいんじゃないですか?」と言い、のん気な過ごした方を自分に許したりする。

今年もそんな風に、都合よくやっていこうと思う。正月が苦手で楽しみ切れないという人がいたら、正月を無視したり、勝手に延長したり、自分のテンションに合わせて自由にやっていきましょう。のんびりでいい、前向きじゃなくていい、昨日とだいたい同じ今日で十分。

スズキナオ
スズキナオ
Xtumblr

1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。

スズキナオ最新刊『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』発売中!
Amazone-hon紀伊國屋書店シカク(特典つき)楽天ブックス

スズキナオ『「それから」の大阪』通販サイト
Amazone-hon紀伊國屋書店シカク(特典つき)楽天ブックス

スズキナオ『 遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』通販サイト
Amazone-hon紀伊國屋書店シカク(特典つき)楽天ブックス

スズキナオ『酒ともやしと横になる私』通販サイト
Amazone-hon紀伊國屋書店シカク(特典つき)楽天ブックス

スズキナオ『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』通販サイト
Amazone-hon紀伊國屋書店楽天ブックス

「酒の穴」新刊『酩酊対話集 酒の穴エクストラプレーン』通販サイト
Amazone-hon紀伊國屋書店シカク(特典つき)楽天ブックス

バックナンバー

↓↓ミュージックフリーペーパー『UNGA!』連載分の第1~19回も順次公開予定です。↓↓