世界を割る
「世界を割る」第29回

第29回 塩で割る

「世界を割る」第29回

酒場ライターのパリッコさん。私はパリッコさんと二人で「酒の穴」という酒飲みユニットをやらせていただいたり、取材に同行させてもらったり、何もなくてもただ飲んだり、と、なんだかんだで長くお付き合いさせていただいているのだが、そのパリッコさんがメンバーとなって運営している音楽レーベルが「LBT」である。

「LBT」にはパリッコさんの他に、DJイオさん、鼓膜シュレッダーことツージーさん、MaedaKenjiさんという主要メンバーがおり、それぞれ奇才というか、人間的にも音楽的にも独特の存在感を放っている(他にも流動的なメンバーがいそうである)。

その「LBT」主催の音楽イベントに参加させてもらったことが何度かあるのだが、その中の一つで、イベントの参加特典として、「塩なめ放題」というのが掲げられているものがあった。フリードリンクとかフリーフード、みたいなもののバリエーションとしてのフリー塩。かっこよく言えば「フリーソルト」。イベント会場に行くと、会場の片隅にテーブルがあり、そこに塩の入った容器がいくつか置いてあって、本当になめ放題だった。

なめ放題といったって、塩である。イベントに来てくれたお客さんが「わーい塩だ!なめ放題だ!」と喜んでなめている姿を見た記憶はなく、でも、たまになめている人がいる。私も適当に選んだ塩をなめてみた、当然しょっぱい。しかしなるほど、これは酒のつまみになる。また、つまみとして最高に簡単であり、最高に飽きがこない。ほんのちょっとで満足できるし。

「漬け物ってしょっぱいでしょう?肉豆腐もしょっぱいですよね?つまり我々は塩分が欲しくて酒のアテを食べているんですよ!だから余計な部分をそぎ落としていけば、塩で足りるんですよ!」とパリッコさんが言っていた気がする。本当にそんなことを言っていたかはわからない。夢かもしれない。でも酔ったパリッコさんは、そんなことを言いそうである。

「この店のニラ玉、濃いめの味付けだから、お酒が進むわー!」などとよく酒飲みは言う。嬉しそうに言っている。塩気が強いので喉が渇き、酒がたくさん飲みたくなるということだろう。体に良いとか悪いとかは、ここでは不問にするとして、私たちは「しょっぱい→酒で水分とる」「しょっぱい!→もっと酒で水分とる!」を繰り返しているだけなのかもしれない。

そう考えていった先に、「もう、酒がしょっぱきゃいいんじゃない?」と思う。あらかじめ塩が入った酒。一石二鳥というか、石も鳥も関係ないが、もうこれだけでこと足りるというワンセット。

ここ最近、チューハイ、サワー系の缶飲料に、塩を打ち出したものが多くなってきているように感じる。今パッと検索してみただけでも「レモン・ザ・リッチ 濃い味塩レモン(サッポロビール)」「塩スイカサワー(サッポロビール)」「すらっと塩レモンサワー(アサヒビール)」「氷結ストロング 塩グリーンレモン(キリン)」「極上レモンサワー つけ込み塩レモン(宝酒造)」「ネオ酒場 塩レモンサワー(宝酒造)」など、大手メーカーの商品として塩系サワーがたくさん販売されているのがわかる。

「世界を割る」第29回

時代は塩。酒ミュージックの先駆者「LBT」に時代が追いついてきたのかもしれない。そこで私も、焼酎を塩で割ってみることにした。塩で割るというか、焼酎の炭酸水割りに塩を少し加えるのである。

まず、いつも飲んでいるセブンイレブンオリジナルの甲類焼酎を炭酸水で割る。この時点ではただのプレーンチューハイということになる。そこに家で料理する際に使っている塩入れから塩をひとつまみ取って、チャカチャカとかき回す。塩を入れた瞬間、「あっ、今、何か入れた?ひょっとして塩入れた??」という感じでチューハイプレーンがシュワシュワと騒ぎだす。「ごめんよ。驚かせちゃったかな?」と思いながら少しの間それを見つめ、いざ飲んでみると、ん?違いがわかるようなわからないような……。あ、でも確かに塩味があり、それによって後味がキリッと引き締まるような感じだ。いいじゃないの!美味しいじゃないの!塩分の取りすぎがあんまりよしとされていないのは私でも知っているから、入れた塩はほんの少しである。でも、なんだかいつもより旨い飲み物になったような気がする。

気をよくして、以前、プレゼントにもらった高級な塩「ピンクロックソルト(ヒマラヤの岩塩だとか)」を同じようにプレーンチューハイに入れてみる。うむ、さらに味に厚みが出たような気がする。「気がする」というレベルではあるが、悪くないように思う。

最後に、この連載で以前紹介した「賞味期限切れ食品専門のスーパー」で買った「パクチー塩」をプレーンチューハイにふりかけてみた。怖いものみたさのような気持ちだったけど、これも悪くないような気がする。スパイシーな香りもして、未知のチューハイになった。

あれ?塩とチューハイ、かなりいいんじゃないか?大衆的な居酒屋に行けばたいていの場合、卓上に塩が置かれているし、レモンハイを注文して、出てきたところにその塩をサッとふって飲む。お手軽じゃないか。なんとなく「酒の魔境」という感じもしなくはないが、今度やってみよう。

スズキナオ
スズキナオ
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1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。

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