世界を割る
「世界を割る」第42回

第42回 カレースパイスで割る

「世界を割る」第42回

ずっと昔からツイッターでフォローしているデザイナー/DJの1-DRINKさんが先日、こうツイートしていた。

週5日ぐらいカレーを食べてるんだけど全然飽きない。オススメはダルカレー。鍋でレンズ豆は10分煮る。フライパンでクミンシードと唐辛子を炒めてそのあとニンニクを投入、ターメリックとコリアンダーパウダー、ガラムマサラを入れて軽く炒める。煮たレンズ豆合わせる。3分煮る。終了。計13分。

その間、鍋でバスマティライスを炊く、200mlの米に対して800mlの水を入れて炊く。10分ぐらいして柔らかくなったらザルでお湯を捨てて鍋にもどして8分ぐらい蒸す。終了。材料は全てアンビカの通販で買えます。

そして、そのツイートに続けて「アンビカ」というインド食材専門店(実店舗は東京の蔵前と西葛西にあるみたいだ)のオンラインショッピングページのURLが「これとこれとこれを買え」みたいな感じで一品ずつ貼られていて、そこまでされたら買うしかない。購入。

そうして数日後、1-DRINKさんの教えてくれた通りのセットが家に届くことになった。早速ツイートに従って作ってみることにした。私はかなりカレーに疎い。スパイスにも疎い。クミンシードがなんなのか、ターメリック、コリアンダー、ガラムマサラ、全然わからない。それぞれ匂いを嗅いだら、「あ、この感じね」とわかるけど、「これとこれをどれぐらい混ぜるとどうなるか」まではまったく想像がつかない。

でもたぶん、だいたい目分量でやって、その都度味が違うぐらいでもいいような気がして、適当にやってみる。そもそもダルカレーがどんなものなのかわからないのだからゴールもわからない。できあがったカレーも、これでいいのかまったくわからない見た目だ。

しかし食べてみると旨い。なるほどこんな感じなのか。味があっさりしていて、自分が唐辛子をそんなに入れなかったからか、辛さはかなり控えめ。煮たレンズ豆をそのままドバっとフライパンに入れてスパイスと炒め合わせたためにシャバシャバっと水気があって、でも自分はこの感じが結構好きである。ビビりながら炊いたバスマティライスもいい食感に仕上がった。

なるほどこれは楽しい。スパイスの分量、入れる具など、完全に自由自在じゃないか。野菜をたっぷり入れてもいいしお肉を入れてもいいわけだ。そしてそれをラーメンにぶっかけたっていいわけで……。ヤバい。スパイスの残りはまだまだあるし、こりゃ最高。

夜、台所に立ってそれらのスパイスを見ていて、「これで割るとどうなるんだろう」と思った。焼酎を、である。

甲類焼酎の炭酸割りを作り、そこにスパイスを入れてみる。クミンシードとコリアンダーとガラムマサラで試してみることにする。

クミンシード、そうそれは、「セリ科の一年生草本である。中東から東はインドまでひろがる地域に自生する。種子(クミン・シード)に強い芳香とほろ苦み、辛みがあり、香辛料として用いられる。一般には種子と呼ばれているが、植物学上は果実である」。

羊肉の串のあの風味だな。好きだ。しかし種子なので、サワーとは混ざってくれない。水面に浮かぶ種子ごと飲み込む感じだ。だからあんまり香りが出ない。しかし後味は悪くない。まあそもそも好きな味なんだから自分にとっては当然か。

次にコリアンダー、そうそれは、「セリ科の一年草である。日本には10世紀頃に渡来した。英語由来のコリアンダー(coriander)、タイ語由来のパクチー、中国語由来のシャンツァイ(香菜)とも呼ばれ、日本においてはこれらの名前で野菜および香辛料として流通している」。

あ、そうか、コリアンダーってなんか聞いたことあるぞと思ったらパクチーじゃないか。パクチーも大好きだし、大阪にあるパクチー料理専門店でパクチーハイっていうのを飲んだことがある。つまり経験済みなのだ。さっきのクミンシードハイと違って混ざりもいいし、風味もいい感じ。飲める飲める。

最後のガラムマサラ、そうそれは、「主にインド料理で使われているミックススパイス(香辛料)である」。ってことはそうか、色々なスパイスがあらかじめミックスされているわけだ。原材料名を見ると「クミン、ブラックペッパー、コリアンダー、カルダモン、クローブ、ナツメグ、シナモン、ショウガ、月桂樹、キャラウェイ、メース」とある。ここまで試してきたクミンもコリアンダーもここに入っているではないか。

であれば、このガラムマサラハイがうまくいけば一番いいのかもしれない。バランスよくスパイスの味わいが楽しめるわけだし。これまで同様、焼酎の炭酸水割りにガラムマサラを少々ふりかける。飲む。うむ。まったく味わったことのない感覚だが、ナシじゃない。いや、アリ。

以前、クラフトコーラという、スパイスを独自に調合して味付けする手作りコーラのお店を取材したことがあって、それがすごく美味しくて印象に残った。そのお店だけではなく、クラフトコーラを作って提供している飲食店がたまにあって、見かけたら飲んでみることにしているのだが、ガラムマサラハイもそれを飲んだ時の感覚に近い。複雑な香味が混ざり合って、「なんだかわからないけど体によさそうなもの飲んでる今!」と思うような。

このガラムマサラハイをもっとセンスのある人が突き詰めていいバランスに整えたら名物ドリンクが生まれそうな気がする。というかスパイス+チューハイって研究の余地がまだまだあるんじゃないか。さらに漢方薬+チューハイとかへも発展していけそうな。もしかしたらその研究の先に、飲めば飲むほど元気になる究極のチューハイが完成するかもしれない。ワクワクしてきた。

今私たちは、未来への扉を開こうとしているのだ。

スズキナオ
スズキナオ
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1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。

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