世界を割る
「世界を割る」第79回

第79回 タイのドリンクで割る

「世界を割る」第79回

大阪の京橋という街で、お昼にタイ料理を食べていた。カオマンガイ、美味しかった。生ビールも飲んだ。近くの席に家族連れが来ていて、家族ぐるみでお店の方と仲良しらしく、楽し気に話す声が聞こえた。

お店の方はタイ出身らしいのだが、家族連れの方が、「この料理の味付けはどうやってるの?」的なことを聞いていて、「この食材を使ってこの調味料で」みたいに丁寧に説明している。あまり聞き耳を立ててもいけないと思ったし、まあ実際、調理法を聞いたとしても料理に不慣れな私にはどうできそうにもないのだったが、その話の最後に「天満のアジアスーパーに行けば色々あるよ」とお店の方が言ったのだけは印象に残った。

天満というのも大阪の街の名で、京橋からも、私の住まいからもほど近い。ちょうど数日後にその天満に行く用事があって、「そういえばタイ料理屋で『アジアスーパー』っていう店の名前が話に出ていたな。どんな店だろう」と思って探しながら歩いていたら、天神橋筋商店街沿いにそれらしき店が見つかった。

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「アジアスーパーストアー」というのが正式な店名で、調べてみると東京の新大久保に本店があって、2号店が2023年の8月に天満にオープンしていたらしい。天満にはよく来るからきっと今までも前を通っていたはずだけど、ここ最近、アジア食材を扱う商店が増えてきていて、その一つとして見落としていたのかもしれない。

しかし、店内に入ってみると、私が思っていた、アジア各国の食材をあれこれ売っている店(それはそれで好きである)からグッと一歩、専門性を高めたような、きっとここでしか簡単に手に入れることができないんだろうと思われるような、見たことのない色々があって胸が躍った。

アジアスーパーストアーという名前からもわかる通り、中国や韓国、インドなどの食材も扱ってはいるが、メインの商品はあくまでタイの食材や雑貨である。私がそれに詳しくないので、もどかしいが、わかる人が見たらきっと「え!これも売ってるの!」と驚くようなものがたくさんあるんだろう。

個人的には店頭でタイの惣菜やお弁当が売られていること、2階にイートインスペースがあって、カップ麺にお湯を入れて食べてもいいこと、缶ビール・瓶ビールの品揃えも充実していること、などが嬉しかった。

「なんだろうこれ、気になる」と思う商品は数多かったが、とりあえずはこの連載向けに甲類焼酎を割る用のドリンクを買うことにした。

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買ってきたのは、「TAS」というメーカーの「Tamarind Drink(タマリンドドリンク)」と、「VITAMILK(バイタミルク)」というもの。ちなみに「VITAMILK」が陳列されている棚には「豆乳ドリンクオリジナル味」と書いたプレートがかかっていた。

よし、まず缶入りのタマリンドドリンクをあけて飲んでみよう。お、これはなんというか、不思議な味わいな気もするが、まったく自分の中にない味ではない。ちょっと甘くて酸味がある。梅シロップというか、プラムシロップみたいな。そこにちょっと大地っぽい味がミックスされている。わかるぞ、この系統の味は甲類焼酎に合う。

そう思って氷入りグラスに甲類焼酎を注ぎ、タマリンドドリンクを注いでかき混ぜて飲んでみると、むしろ単体で飲むよりも好みだった。いける。缶には木の根っこのようなイラストがあって謎だったのだが、調べてみるとタマリンドとは以下のようなものらしかった。

タマリンドは、マメ科チョウセンモダマ属のフルーツで、アフリカの亜熱帯地域が原産です。見た目は、大きなそら豆のような形をしています。

日本ではあまりなじみがありませんが、東南アジアやインドで盛んに栽培されており、タイやインドでは定番のフルーツです。

タマリンドの果実は、少し独特な風味があり甘酸っぱい味わいです。干し柿に梅干しの酸味を加えたような味で、一度食べるとクセになってしまう人もいるようです。

「DELISH KITCHEN」より https://delishkitchen.tv/articles/829

ドライフルーツとして食べられたり、ペースト状にして調味料に使われたりするそうだ。“タイの焼きそば「パッタイ」をつくる際にも欠かせません” だって!そうなんだな。

タマリンドジュースについて“そのまま飲むのはもちろん、炭酸水で割って飲むのもおすすめです”とも書いてあったので、慌てて炭酸水を足してみたら、これがまたいい。プレーンチューハイに風味を足したい時など最適だろう。

さて、もう一方のバイタミルクはどうだろう。豆乳ドリンクであることは間違いないが……。紙パックにストローを差して飲んでみると、おお、たしかに豆乳だ。思ったよりも甘みがあって、このままブラックのコーヒーに入れたらちょうどいいソイラテができそうな感じ。

甲類焼酎をそれで割ってみると、カルアミルクみたいな感じになって、すごく飲みやすい。バイタミルクについても、検索してみた。

VITAMILK(ビタミルク・バイタミルク)はタイを代表する豆乳飲料です。
タイで豆乳といえばこれ、というくらい人気のある商品で、子供からお年寄りまで世代を問わず愛されている健康飲料だそうです。しかも今ではアジアだけでなく、アメリカやヨーロッパ、アフリカ諸国にまで輸出され、世界中で消費されているのだとか。

日本の豆乳と比べると甘みが強く、好き嫌いは分かれそうですが、現地の味に慣れている人なら問題なく飲めると思います。
ちなみに当店では、ベトナム人、カンボジア人、ミャンマー人に特に人気。きっと母国でも人気があって、普段から飲んできた懐かしの味なんでしょうね。

なるほど、かなり幅広くあちこちで飲まれているものらしい。人によっては懐かしの味なのだな。

っていうか、この「シャプラ」の商品説明文、なんかいいな。「シャプラ」はアジア食品の通販サイトで、“中国、韓国、タイ、ベトナム、インドネシア、 フィリピン、さらにインドやバングラデシュなどで使われている香辛料・調味料・飲料・菓子といった食材”が扱われているのだが、たとえばこれ。

「ZUM ZUM ラーメン」

ベトナムのインスタントラーメンです。
ベトナムの麺といえば米で作られた「フォー」を真っ先に連想しますが、小麦粉で作られた中華麺「ミー」も日本と同様に大変人気があります。

ZUM ZUM ラーメンは、そんなミーの中でも群を抜いてコスパに優れた一品。お湯を注ぐだけでできてしまう手軽さとベトナム人が好むピリ辛の味付けで、日本に住む技能実習生たちの間でも人気が出てきている商品です。
なにより値段が安いので、おやつ感覚で気軽に食べることができますね。

そしてこれ、

「RENO レバースプレッド缶」

牛と豚のレバーをペースト状に加工し、味付けをしたものです。
何種類かのブランドから似たような商品が出ていますが、やはり一番人気はこのRENOブランド。現地のスーパーで思いっきり山積み陳列されているのを見ると、その不動の人気ぶりに感心してしまいます。

レバースプレッドは、日本ではあまり見ませんがフィリピンではよく知られた食品で、パンやトースト、サンドイッチなどにそのまま塗って使います。
すでに加熱調理済みなので缶を開けたらすぐに使えて便利な上、1~2回で使い切れるサイズなので無駄もありません。

これもいい。

「デーツ」

デーツとは、中東や北アフリカなどで広く栽培されている果実で、和名は「ナツメヤシ」といいます。
その歴史は非常に古く、紀元前6000年頃にはすでに栽培が行われていたのだとか。聖書やコーランにも登場することから、古代の人々にとっても大変なじみ深い食物であったことが伺えます。雨の少ない地域でも生育が可能で、乾燥させた果実は栄養豊富な上に長期保存が可能な事から、砂漠地帯にすむ民族にとってはなくてはならないものだったようです。

現代では、カリウム、鉄、カルシウム、リンといったミネラルが豊富な事からヘルシーな健康食として広く愛されています。
またイスラム教徒の間では、ラマダーン(断食)の際に食べる食物としても有名。朝から何も食べていない弱った体に、素早くエネルギーを補給してくれます。
干し柿をもっと濃厚にしたような甘さがあり、牛乳との相性が抜群。牛乳とデーツだけで簡単な朝食代わりにもなってしまいます。

食べ方は色々でジャムにしたり砂糖代わりに使えたりもするようですが、やっぱりそのまま食べるのが一番のオススメ。
ただ我々はすぐに口に入れたくなりますが、食べる前に水でサッと洗ってホコリを落とすのが現地では常識だそうですよ。

なんか、一つ一つがすごく親切だ。向こう側に優しくて知的にな人がいて、丁寧に教えてくれる感じ。楽しくなって全商品の解説を見ていきたくなる(どの商品にもちゃんと説明があるのだ)。

それはそうと、タイのドリンク、どちらもそれぞれに個性的で美味しかった。アジアンスーパーストアにはまだまだ自分にとって未知のドリンクがたくさん並んでいたので、また買って割ってみたい。

スズキナオ
スズキナオ
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1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。

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