世界を割る
「世界を割る」第59回

第59回 中国食材店のドリンクで割る

「世界を割る」第59回

大阪市に「日本橋」という町がある。私は東京で育って大阪に引っ越してきたのだが、幼い頃、東京都中央区の「日本橋」というあたりでよく過ごしていたから、「あ、同じ名前!」と最初は驚いた。

同じ漢字三文字の地名でも、東京の方は「にほんばし」、大阪の方は「にっぽんばし」と読むのが一般的で(でもたまに大阪の「日本橋」を「にほんばし」と呼ぶ大阪の人もいるから難しい……)、町の雰囲気はだいぶ違う。大阪の「日本橋」はよく東京の秋葉原に似ていると言われる。

「でんでんタウン」という通り沿いやその周辺に家電量販店や電子機器、部品などを扱う店が集中し、PCやゲーム、映像ソフトが手に入りやすい場所であることがベースになって、いわゆるオタク文化の根付く町としても発展していったようである。私は秋葉原を歩くことも、大阪の日本橋を歩くことも、どちらもたまにあるのだが、確かに雰囲気が似ている。メイド喫茶がたくさんある。大阪の日本橋の方が少しエリアが広い分、歩きやすい気がする。

その大阪の日本橋から恵美須町方面に向かって歩いていく途中に、中国の食料品や雑貨を扱う店が何軒かある。ここ最近、通りかかるたびに売店が増えているように見え、売店だけでなく、中華料理を出す飲食店もできているようだ。さっき秋葉原に例えたばかりだが、その辺りを歩いていると、東京・池袋の北口周辺を連想したりもする。

飲食店の方へは今度食べに行ってみようと思っているところなのだが、今回は、いつも通る食料品店の店頭で売られていた中国のドリンク色々を適当に買い、焼酎を割って飲んでみることにした。

「世界を割る」第59回

「王老吉」「珍珍」「酸梅湯」という3つのドリンクを床に並べた。私はたぶんどれも飲んだことはないと思う。どれがどんなものだか、想像もつかないのが楽しい。普段、コンビニやスーパーで買い物をしていて味がまったくイメージできないものに出会える機会など、そうそう無いものである。まずは「王老吉」だ。赤い缶に黄色い字で「王老吉」。なんとなく「深い苦味のあるようなお茶かな?」と思って一口飲んだら甘くてびっくりした。いや、お茶はお茶だな。後味がすごく甘いお茶という感じだ。

甲類焼酎を割って飲んでみると、うむ。このままだとちょっと焼酎の苦味が立ってしまうような感があるな。炭酸水を加えてみると……より謎のドリンクに。私の配合が下手なだけで、もう少し工夫できそうな気もするが。

次は「珍珍」だ。これもまたよくわからない。まずは一口飲んでみよう。あ、これは知った味。ライチだ。よく見ると缶に「LYCHEE」とアルファベットが並んでいる。さっぱりとしたライチ味の炭酸ジュースという感じである。焼酎を加えて飲んでみると、これはすごくいい!というかそもそものジュースの味からしてすごく好きだ。「ライチサワー」という飲み物自体はそんなに珍しくないんだから、まあそりゃ美味しいよなという感じもするが、ベタベタに甘過ぎないところが気に入った。

最後は「酸梅湯」だ。こうして文字として見てみると「酸」で「梅」で「湯」なのだから風味の想像もつきそうなものだが、実際は名前の意味すらよく考えずに飲み込んだので強い酸味にうろたえた。しかしそこで屈せずに二口目を飲んでみると、いや、これは味の濃い梅ドリンクである。ということはもちろん、焼酎を割るのにはぴったりなのだ。かなりアタック感のある酸味なので、これこそお好みで炭酸水を加えてもいいだろう。後味のすっきりした梅サワーができあがった。

どれも面白い味だったな、と思いつつ、ここでようやくインターネットを駆使して調べてみる。最初に飲んだ「王老吉」については、私がたまに記事を書いているコラムサイト「デイリーポータルZ」で、過去にこれを取り上げた記事があった。

それによると、「王老吉」と書いて「ワンラオジー」と発音するこのドリンク、中国ではコカコーラをしのぐほどポピュラーなものなのだとか。“仙草、インドソケイ、破布葉 、菊、スイカズラ、ウツボグサ、リコリスといったいろんな草のエキスが入っている漢方なドリンク”と解説されていて、今さらながら「なんだか体によさそうなありがたいものだったんだな」と得した気分に。

次の「珍珍」にはメーカー公式サイトがあって、それを日本語訳してみたところによると、1992年から発売されているドリンクで、“その豊かで独特なライチの風味、甘くてさわやかな味わいは、北部の消費者に深く愛されています”とのこと。サイトのトップにはCM動画的なものが貼ってあって、それを見るに子どもたちにも愛されているようなものらしい。

最後の「酸梅湯」は「サンメイタン」と発音するようで、青梅を燻したものが原料らしい。言われてみると後味に少し燻製っぽい香りがある。滋養強壮に効果があり、特に暑い夏に“夏バテ防止ドリンク”として飲まれているそうだ。凍らせても美味しいのだとか。国内向けに通販をしているサイトもたくさん見つかり、人気の高さが伝わってきた。

今回私が買い物をした日本橋のショップでは、どのドリンクも一本100円以下で売られていた。店の棚にはまだまだ飲んだことのないドリンクがたくさん並んでいたので、しばらくシリーズ化して続けてみようと思う。

スズキナオ
スズキナオ
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1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。

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