3年ぶりに受けた健康診断で“γ-GTP”がグンと上がっていた。お酒を飲む方にとってはお馴染みの数値だろう。γ-GTPは肝臓、腎臓などで作られる酵素で、特に肝臓に疾患がある場合に高くなる。お酒を日頃から飲み過ぎて肝臓に過剰な負荷がかかっている場合や、常用している薬が肝臓に影響を与えている場合などもこの数字に影響が現れる。
医師から「とにかくお酒を控えることです!」と言われ、さすがに少し落ち込み、しばらく節酒してみることにした。私はフリーライターとして小さな稼ぎを得ているのだが、取材で外に出ている時を除いては自宅で仕事をする。いや、仕事はそんなにしていなくて、だいたいぼーっとしている。金は無いけど時間には余裕があるので、朝から酒を飲み続けても問題ない。そんな環境なので、朝、遅めに起きたらまずモーニング焼酎で喉の渇きを潤して……みたいな生活をしていた。そりゃあ、体にガタもくるだろう。
ここ最近は、人と会って少しお酒を飲む、居酒屋取材の際に少々飲む、というような時以外はお酒を炭酸水に置き換えて過ごしている。ひょっとして「やっぱり酒なしでは生きられない!酒飲ませろ!」という状態に自分がなるんじゃないかとおそれてもいたのだが、幸いそんなこともなく、平穏な日々だ。仕事がうまく進まず気持ちがどんよりした時も炭酸水のシュワシュワでリフレッシュ。今までは味のない炭酸水を飲んでいる人の気が知れなかったが、やっとわかった。みんな酒のかわりに飲んでいるんじゃないか。
炭酸水を飲んでいると、逆に酒ってなんなんだろうと思う。酒にあって炭酸水に無いものとは……。例えば私が居酒屋でよく注文するチューハイのプレーンは、甲類焼酎を炭酸水で割ったものである。飲んでみると、炭酸のシュワシュワの後に、甲類焼酎の甘みと、ちょっとクセのある、苦味にも似た風味が残る。あのアルコールの風味だけを残し、“酔う”という効用だけを抜き去ったら、肝臓に悪影響を与えない“酒テイストの飲み物”ができるわけである。
そういう飲み物のバリエーションとしてノンアルコールビールやノンアルコールチューハイが作られている。節酒を始めて以来色々買って飲んでみているのだが、どれもすごくよくできている。ちゃんと酒っぽい香りがするのだ。
色々な飲み物を炭酸水と組み合わせて自分なりのノンアルコール飲料を作ることができないかと思い、今回試してみることにした。
目指すのは前述した「ノンアルコールプレーンチューハイ」だ。甘ったるくなくスッキリした味でありながら、だが、酒っぽい風味は確かにある、というようなものにしたい。
まずはアサヒ飲料の缶コーヒー「WONDA BLACK無糖」だ。これを「ウィルキンソン」の味のない炭酸水で割ってみる。コーヒーをグラスに少し入れ、炭酸水をドボドボと注ぐ。ビールみたいな色合いの飲み物が完成した。飲んでみると、なんだかぼんやりした味だ。コーヒーが足りないのかと思って足していく。結局185ミリリットル全部入れた。そうしてみると、さっきよりさらにビールっぽい味わいになった。黒ビールの薄いのだと思えば思えなくもない。ただ、しっかりした味の飲み物として成り立たせるために1缶丸ごと使わないといけないというのは不経済な感じもする。
次にお茶はどうだ。アサヒ飲料「2倍濃い十六茶」で試してみよう。コーヒーのように濃い色味。そのまま飲んでみるとお茶の香りと共にしっかりとした苦味が感じられる。これをグラスに少し注ぎ、炭酸水で割る。そうしながら自分で「なんでわざわざ炭酸で割る必要があるんだ?」と思いもしたけど、やっぱり炭酸のシュワシュワがないとごまかしが利かない気がするのである。あの弾ける泡の勢いで「今飲んでいるのは酒である」と錯覚させるのだ。
結果、さっきの缶コーヒーよりもさらにぼやけた味になった。“何がしたいんだかわからない飲み物”、という感じだ。飲んでいると不思議と腹が立ってくる。お茶をもっと足してみると、「これはこれでありかな」ぐらいのレベルにはなったが、決してお酒の代用としての役割を果たしてくれそうにはない。
最後に「ポカリスエット」だ。「ポカリスエットを炭酸水で割ったらチューハイのプレーンがわりになるんだよ」って誰かが言っていたとしても私はたぶん信じない。そんなはずないだろう、と思う。だが、これが今回試した中では一番「ノンアルコールプレーンチューハイ」に近い感じになった。ポカリスエットが少量だと何がなんだかわからない味になり、かといって入れすぎると甘ったるくなり過ぎる。なかなかバランスが難しいのだが、うまくいくと、ほのかな甘みとかすかな苦味が後に少しだけ残るような炭酸飲料ができる。決して美味しい飲み物とは言えないのだが……というか、今回試した飲み物は全部そうだ。「それ美味しいの?」と聞かれたら答えに困る。でも、そもそもチューハイのプレーンってそういうものじゃないか!?
(X/tumblr)
1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。
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