世界を割る
「世界を割る」第74回

第74回 「のむヨーグルト」で割る

「世界を割る」第74回

取材先でレモンチューハイを飲んだ。店内の一つ一つのテーブルにチューハイ用のサーバーが設置されていて、客がどんどん勝手に注いで飲んでいいスタイル。それが60分間飲み放題で税込み700円もしないという価格帯であった。

卓上にサーバーが設置されていて飲み放題という、そういうスタイルのお店があることは知っていたのだが、なんとなく、ワイワイと大勢で飲む人たちに向けたもので、自分にはあまり縁がないと思っていた。なのだが、取材をきっかけに飲んでみたら、そこで飲んだチューハイがすごく美味しかった。

店主のこだわりで、チューハイは強炭酸であるべしと、サーバーからとにかく強い炭酸が出るように設定されているそうだった。考えてみれば、自分で注いですぐ飲むわけだから、炭酸がこの上なくフレッシュなのだ。生まれたての炭酸を最速で味わえるのはこのスタイルならではなのである。あと、いちいちお店の人を呼び止めなくていいのが気楽だ。私のように声の通りが悪い者にとっては大変助かる。

「これは最高!」とその店でチューハイをグイグイ飲んで、酔った。酔いながらも取材はなんとかして、お店の方に聞いたところによると、その店は過去に、あちこちの飲食店がオリジナルチューハイを作って出品するチューハイコンテストのようなイベントで優勝したことがあるんだという。

そしてその時に優勝したのは、レモンチューハイにヨーグルトを加えたものだったそう。「えー!それ飲みたいです!」と私は酔って言ったが、「その商品はその時の限定のもので、今ここでは提供してないんですよ。すごく好評だったんですが」とのことだった。

チューハイ通の方には「今さらかい」と言われるだろうが、家に帰ってから検索してみると、ヨーグルトを使ったチューハイのレシピというのは結構あるようだ。検索結果の上位に出てきたものをサッと見ただけだが、どうやら、チューハイに飲むヨーグルトを加えるだけで十分それっぽくなるらしい。

コンビニに向かい、甲類焼酎とレモン風味の炭酸水と「明治ブルガリアのむヨーグルト」を買ってきた。並べてみるとどの商品もパッケージにブルーが使われていて、なんだか素敵だ。

グラスに氷を入れ、炭酸水を注ぎ、甲類焼酎を加え、そこに「のむヨーグルト」を、ちょっと多めに足す。それをかき混ぜる。できあがりだ。

味わってみると、「のむヨーグルト」自体にそれほど甘みがついていないものを選んだから当然なのだが、酸っぱくていい。ヨーグルトと炭酸を合わせるというと、方向性的には「カルピスソーダ」とか「アンバサ」みたいな、脳がああいうジュースの味わいを無意識に求めるのだが、このヨーグルトチューハイは甘くない。そこに一瞬の違和感があるのだが、慣れてしまえばなんとも後味のすっきりしたいいチューハイである。おまけにヨーグルト由来のまろやかさがあるから、一杯飲んだ時の満足感も大きい。「なんか美味しいもの飲んだな」という気になる。もちろん、好みに応じてもっと甘くしたり、フルーツを加えたりしてもよさそうである。よし、これはいいぞ。

それはそうと、この少し前に「アンバサ」と書いたのだが、アンバサを飲んだことがないどころか、見たことも聞いたこともないという方がいるかもしれない。

“アンバサは、日本コカ・コーラから発売されている乳性炭酸飲料である”とウィキペディアにある。どこでも見かけるというドリンクではないが、今も製造されており、通販でも購入可能なようである。ほとんどカルピスソーダみたいな、ああいう味であることは間違いないのだが、どうだろう、じっくり飲み比べてみたら結構違うかもしれない。

アンバサと言えば、私はディズニーランドである。中学生時代、ディズニーランド好きの友人と、結構な頻度で遊びに行っていた時期があって(子どもだったのもあるけど、今より入園料が各段に安かったように思う)、といっても、今思えば年に数回とかそんな程度だったろうけど、あそこで過ごした場面をいくつも思い出せる。

そのディズニーランドの園内でアンバサが売られていた。私と友人の間ではいつからか「ディズニーランドで飲むものといえばアンバサ」というような暗黙の了解が生まれていて、喉が渇いて何か買って飲むならアンバサの一択だった。なぜだろう。理由はたぶんないが、なぜかそうだった。

「やっぱり、ディズニーランドで飲むアンバサが一番うまいわ!」と、そんなことを友人と言い合った気がする。もしかしたら「アンバサ飲まなきゃディズニーランドに来た意味ないわ!」ぐらいのことまで言ったかもしれない。

「ディズニーランド アンバサ」で検索すると、「ディズニーアンバサダーホテル」という宿泊施設の案内ばかり表示される。紛らわしいが、知りたいのはそれではない。というか今って「アンバサダー」という言葉がよく使われるから、これから「アンバサ」の肩身が狭くなっていきそうで心配だ。

まあ、とにかく気を取り直して「ディズニーランド アンバサ 飲み物」で検索すると、

至急教えてください!ディズニーランド内でドリンクのアンバサが飲めるとこはありますか?あったら教えてください

という、「Yahoo!知恵袋」に寄せられた質問が表示された。いくつか回答がついていて、

たしか、ワールドバザールの「れすとらん北齋」にはあったと思います。

とか、

ファンタジーランドの「クインーンオブハートのバンケットホール」が建設される前、「アルパインハウス」というカウンター形式のフード施設がありました。当時、ここがTDLで唯一、アンバサを販売していた施設でした。その施設も今は、存在していないので、この時点で“絶滅”だと思います

などとある。前述の質問が投稿された日付が2010年だから、今やもう売られていないかもしれない(「れすとらん北齋」のメニューには「アンバサ」の記載はなかった)。そう思うと、なんだかちょっと切ない。ディズニーランドで飲んだアンバサ、美味しかったな。あそこで飲むアンバサが一番美味しかった。

スズキナオ
スズキナオ
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1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。

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