世界を割る
「世界を割る」第34回

第34回 「こどもののみもの」で割る

「世界を割る」第34回

ニンテンドー3DSの「マリオメーカー」というゲームで、半年前ぐらいからこどもが遊んでいる。こどもが突然腹痛を訴えて病院にかかり、いきなり入院することになって、幸い症状は大したこともなく数日後に退院することになったのだが、横になっているだけの時間が暇そうであり、不憫でもあり、前から欲しがっていたニンテンドー3DSの本体と、本人の希望する「マリオメーカー」を併せて購入して病院に持って行った。

「マリオメーカー」というのは、人気作らしいので知ってる人が多いかもしれないが、横スクロールのアクションゲームのスーパーマリオシリーズの、右に走っていくとクリボーが出てくるのを飛び越えて、最初の「?」をジャンプで叩きあげるとコイン1枚、次の「?」を叩くとキノコが出てきて、それを取るとデカくなって、という、ああいうコースのデザインを自分で自由に作ることができるゲームである。

自分で作ったコースはいくつも保存できて、オンラインにアップすることもできる。また、そこにアップされている、たくさんの人が作ったコースで遊ぶこともできる。自分でコースを作るという、結構時間も手間もかかって大変そうであるその行為が本当に面白いのか、私はやったことがないのでわからないが、こどもはずっと熱中してやっていたようだった。

ちなみにニンテンドー3DSの「マリオメーカー」には「スーパーマリオチャレンジ」というモードがあって、それはもともと用意されたコースをクリアしていく、従来のマリオみたいなアクションゲームモードで、全部で100コースほどあるというのをクリアしていくと、オリジナルのコース作りに使えるパーツ(ブロックとか土管とか)が少しずつ増えていくのだそうだ。これを全部クリアするといよいよフルセットのパーツでコースを自作できるようになるというわけだ。

先日、新型コロナウイルスで学校が休みになって、暇で暇でしかたないところにこどもの友達が遊びに来てくれた。こうして休校中に行き来すること自体、控えた方がいいのかもしれないが、目の届く範囲で、うがい手洗いに気をつけて、ひとりふたりぐらいで遊んでるならまあいいだろうと思った。こどもは退屈の砂漠に水源が現れたかのごとく大喜びである。二人とも3DSを持っているので持ち寄って遊んでいた。

しかし、その友達が帰ってしばらくして問題が発生した。こどもが「マリオメーカー」をやろうと思って電源を入れたら、「この本体では遊べません。遊ぼうとしたら全部データが消えますけど遊びます?」みたいなメッセージが出てしまうのである。どういうことだろう。調べてみると、ニンテンドー3DSは本体1台とソフト1個が1対1で紐づけられるようになっていて、それはつまり、ソフトが不正に貸し借りされたりコピーされたりするのを防ぐ仕掛けらしいのだが、「はい俺の作ったコースが入ってるソフト貸してあげるから遊んでいいよ」ということができないようになっているようなのだ。それをやりたければ本体ごと貸し借りしないとならない。

それを知らなかったこどもは、ソフトを友達に貸し、友達は友達で、「このソフト遊ぼうとするとデータ消えますけど?」と表示が出たのを「はいよー。はいはい」みたいな感じで突破していって、それでデータが上書きされてしまったみたいだ。で、友達の3DSに紐づけ直されたソフトをまた違う本体で改めてプレイしようとしたので前述の表示が出たというわけ。どうすることもできず、データは抹消された。こどもはデータがもう戻らないことを知って泣き、「80個も作ったコースが入ってたのに」「アイテムも8ステージまで進んで集めたのに」と悲しんで疲れて眠った。

その日の深夜、データゼロ、白紙状態の「マリオメーカー」を私は立ち上げ、せめてこどもが集めていた8ステージまでのアイテムを朝が来るまでに取得しようと思った。そうやってスタートしてみると、なかなか難しい。最初の方こそ「余裕!こちとら初代ファミコンからの古参よ。これ系のパターン知り尽くしてるわ」とラクラク進めていったのだが、エリア7ぐらいから難易度が一気に増した。それでもなんとか7はクリアできて、いよいよ8-1のスタートだ。ちなみに8-4までクリアしてはじめてエリア8のパーツがもらえる仕組みだ。マリオは10機(あと何回死んだらゲームオーバーっていうライフみたいなのをどうしても「1機」「2機」と呼んでしまう。古参のみんなはそうだろう)あって、コンテニューは何回でもできるけど、どこまで進んでも、8-4をクリアできずにゲームが終わったらまた8-1からになる。

8-1がめちゃくちゃ難しい。そして、そこでだいぶ機数を削られた後の8-2がまた輪をかけて難しい。空飛ぶメットたちの頭から頭に器用に飛び移り続けなくてはならない空中面。死にまくる。「なんなんだよこのゲーム!」と3DSをぶん投げたくなるが、それはやめて一度電源を切る。しばらく考えて、やはりどうしても8-4まではクリアしなくては……と思い電源を入れる。かつてこんな思いでゲームに向き合ったことはなかった。しかしその後、どうしても8-2がクリアできず、疲れ果てた私はいつの間にか眠ってしまっていた。

朝、こどもが「おー!8面までパーツ揃ってる!前と一緒や」と喜んでいるのでまあそれでよしとした。夜が来て、こどもと一緒に近所の王将で夕飯を食べていて、私が生ビールを飲んでいると、「あーあ、あのステージも消えちゃったんかぁ」と、しみじみと思い出すようにこどもがまた「マリオメーカー」の話をし始めた。今度は泣きそうな感じではなく、データが消えたという不思議さを何度も確かめているような風だ。

「たとえばどんなステージを作ったの?」と聞いてみると、「ストレス解消のステージはヒップアタックで一気にブロックを壊せんねん」と言う。「めっちゃ難しく作ったアスレチックもあった」。その他に、こどもの兄の友達が、兄がいない時に家をたずねてきて、「兄はいないよ」と言ったけど「少し遊んでいくわ」と入ってきて、こどもの3DSで「マリオメーカー」をやって帰っていった日があって、その時、兄の友達が作ったコースがとんでもなく面白かったんだそうだ。「そのコースはめっちゃくちゃコインが取りまくれんねん」「ゴールデン地獄っていう名前のコースやねん」「あのコースまたやりたかったな」と言うのをビールを飲みながら聞いていて、私はいきなり涙が出そうになって困った。「ゴールデン地獄でもう絶対に遊べないんだな」と思ったら途方もなく寂しくなってくる。

王将を出て、「パーツ全部集めて今度もっとすごいコースを作ろう」と言いながら夜道を歩き、近所にある大型のリカーショップで、サンガリアの「こどもののみもの」という、ビールそっくりに泡が立つ子ども向けの飲み物と、同じくサンガリアの「いちご&ミルク」、トレボン食品というメーカーのラムネを購入。それぞれで焼酎を割って飲んだ。

「こどもののみもの」は、氷を入れたグラスに注ぐと本当にしっかりと泡が立って、色味的にも完全にビールだ。半分を自分の焼酎用にもらい、もう半分はこどもに分けて乾杯する。リンゴジュースみたいな味がする。もともとが甘みの強い飲み物であるため、焼酎を割ると苦味がかえって浮き立ってしまった。「いちご&ミルク」もラムネも同様で、「これの焼酎なしが飲みたい」と思う結果となる。焼酎の量をかなり少しにして、割り材を多めにしてみたところ、それならなんとか飲めた。“こども向け飲料で焼酎を割りたい場合は焼酎は少なめ”、みなさんもぜひ心がけてみて欲しい。

スズキナオ
スズキナオ
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1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、パリッコとの共著に『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)。

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