世界を割る
「世界を割る」第28回

第28回 ファミマのフラッペで割る

「世界を割る」第28回

オシャレな人は夏の間に冬服を買うという。「いう」って、誰かがそう言ってたのを聞いたことがあるかというと、全然無いのだが、なんかそんなことを雑誌で読んだか、夢で見たのかな?

まあでも、実際に今年、いよいよ真夏というタイミングでハーフパンツが欲しくなってメルカリで探したら、かっこいいやつはどれも思ったより高かった。で、逆にフリースを検索してみたら、去年自分が買ったようなのがもっとだいぶ安く売っていたりした。なるほどな、やっぱり夏に冬服を探しておくと、お買い得なのか。オシャレな人はお買い得だからそうしていた、ということがわかった。

それでハーフパンツはやめてフリースを買うことにしたのだが、せっかく買ったのに全然すぐに着れない。当然である。まだ夏だから。試しに羽織ってみただけですぐに汗ばむ。早く寒くなって欲しい。

今日も近所にラーメンを食べに出かけたらとんでもなく暑かった。今、2019年の9月2日の大阪に私はいるが、昼間はプールに飛び込みたいぐらいの暑さである。

そんな時に友人から「今、ファミマのフラッペってこんなに色々あるんですね」と写真が送られてきた。確かに棚に色々並んでいる。ファミマのフラッペ、私は一度食べたことがあって、冷凍棚に並んでいるものを買ってカップのフタをあけ、店内のコーヒーマシンを使ってホットミルクを注ぎ入れる。アイスと温かいミルクがちょうどよく混ざって溶け、ストローで飲めるぐらいの状態になる。確かに美味しかったあれ、好評ゆえか今はフレーバーも増えているようだ。

ちょうどラーメン屋からの帰り道にファミリーマートがあるので寄ってみたところ、本当に色々あった。今サイトを調べてみると、8種類あるらしい。私はその中から、3種類を選ぶことにした。そう、焼酎をそれで割るために。

フレーバーごとに価格が違い、一番高いので330円する。一瞬「思ったより高いな」と思ったのだが、考えてみればこれが居酒屋メニューの壁の「チューハイ 330円」だったら全然違和感がない。むしろ「お、良心価格の店だ!よかった!」と思うだろう。普段なんの躊躇もなくチューハイを何度もおかわりしている自分が、こんな凝ったアイスを前にして「高いな」ってことはないだろう。

というか、普段なかなか手が出ず、年に2回ぐらいだけ食べるようにしているハーゲンダッツのアイスだって、たいていの店のチューハイより安いんだなと気づいて価値観がゆらぎ、なんだか頭がクラクラした。

「世界を割る」第28回

気を取り直して「ソーダバニラフラッペ(258円)」「メロンジェラートフラッペ(320円)」「カフェフラッペ(270円)」の3つを選んでレジへ。レジへ運んだ後に気づいたのだが、前述の通り、これは店内のコーヒーマシンでミルクを注いで完成するものである。だが、今注いでしまったら3つのカップを持って家にそろりそろりと帰り、急いでそこに酒を注いで、と、すごく大変そうだ。なので、「このまま持って帰ってもいいですか?」とお店の方にことわってそのまま持ち帰り、ミルクは家で牛乳を温めて入れることにした。

で、これは後になって調べてわかったことなのだが、ファミマの店舗によってはそのまま持ち帰ることを断っているところもあるらしい。あくまでファミマのミルクがちゃんと入って完成する品質、ということだろう。それでいうと、持ち帰った上にさらにそこに酒を注ごうとしている自分はもう、品質を抱えたまま宇宙空間に飛びあがって自分もろとも爆発するような感じかもしれない。

家に帰り、一度冷凍庫で冷やし直した後、焼酎を割っていくことにした。フラッペのフタをあけると、ホットミルクを注ぎやすいように中央にくぼみが作られている。そこにそのまま焼酎を注げば一番ワイルドかつハイスピードに飲めるのだろうが、一度ここはファミマの正式なフラッペに近づけるべく、牛乳を沸騰させて注ぐことに。

まずは「メロンジェラートフラッペ」から。牛乳と混ざってシェイク状になったところをそのまま一口食べてみると、まあ、旨い!このままで全然いい。そしてだいたいもう私は先に分かっているのだが、ミルキーで甘いものに焼酎を注ぐと、尖った存在感が出てしまい、いつもうまくいかないのだ(焼酎のミルク割りは美味しいのにな、なんでだろう……)。案の定、焼酎を足すと苦味が立ってしまい「わざわざやる必要はないかな」という結果に。

次の「ソーダバニラフラッペ」はそれよりもだいぶよかった。こっちは牛乳と混ぜ合わせた上でもソーダ感がしっかり残っていて、たまにアイスの「ガリガリ君」をチューハイに突っ込んだようなメニューが居酒屋にあるけど、あれにクリーミーさを足したような感じ。夏っぽい。

最後、「カフェフラッペ」は前の2つと比べてかなりビターな味わいで、これ系は焼酎を足しても苦味に酒感が隠れて相性がいいのだ。もしスターバックスが酒を新しく開発するとしたらこんな感じになるんじゃないだろうかというような一品である。

立て続けに3つもフラッペを食べたので体がめちゃくちゃに冷え、すぐに風呂に入った。それでだいぶ温まって、上がる頃にはもう元通りになっていたが、「あの寒かった時、フリース着れたんじゃないか?」と、今になって思った。

スズキナオ
スズキナオ
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1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。

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