世界を割る
「世界を割る」第31回

第31回 野菜ジュースで割る

「世界を割る」第31回

「あれ、今まで野菜ジュースで割ってなかったっけ?」と思った。

主に焼酎を、色々なもので割って飲んでみているこのコーナー、ことさら出版で連載する前はミュージックフリーペーパー『UNGA!』誌上に書かせてもらっていたのだが、今まで書いてきた30回分を見返しても野菜ジュースで割っている回が見当たらない。

居酒屋で「トマトチューハイ」「トマトサワー」などといったメニューを見かけると可能な限り注文するようにしている。なぜなら体に良さそうだからである。そんな自分だから、野菜ジュースなんて真っ先に“割り材”として手を伸ばしていそうなもんだが、意外だ。もしかしたら忘れているだけかもしれない。

ここで言う「野菜ジュース」とは、「充実野菜」、「野菜生活」みたいな、「野菜一日これ一本」みたいな、ああいう紙パック入りのもので、コンビニやスーパーに行くとそれ系のドリンクが集まって売られているコーナーがあると思う。そこに固まっているものならだいたい野菜ジュースという、大づかみな感覚をここでは採用したい。

早速、近所のスーパーで3つ選んできた。そういったものの陳列されているコーナーが大きくて、驚くほど色々な種類があって迷った。「黒酢ドリンク」や「カムカムドリンク(アマゾン川流域原産のフトモモ科に属する植物がカムカムだそう)」など、野菜ジュースとは呼べなさそうなものも一緒に並んでいる。「体に良さそうな飲み物コーナー」ということだろう。これらを片っ端から試していくだけでこのコーナーもまだまだ続けられそうだ、と希望を感じた。

さて、まず試してみたのが株式会社ユーグレナ・アートの「飲むミドリムシ」である。ミドリムシは「植物と動物両方の性質を持った微細藻類」だという。学術上は「ユーグレナ」と呼ばれるらしく、最近ではそっちの名前の方を耳にする気がする。なんだか体にいい色々な要素があるらしいのだが、なんせ「ミドリムシ」という名はちょっとビビらせ過ぎる。そこら辺の感覚がいたって凡庸な私は、まさにミドリムシという名前が怖い方である。「青汁」も怖い。なんかもっといい名前があるだろう、と思う。

シャンプーが「頭洗い汁」だったら嫌じゃないか。リンスが「頭つるつる汁」だったら嫌だろう。石けんは……あれは石けんか。いや、即物的なネーミング、例えば「汁そば」が逆に美味しそうなケースもあるよな。指輪なんかあんなに素敵な贈り物なのに「指」の「輪」だしな。じゃあ「ミドリムシ」も「青汁」も別に変じゃないのか。緑と青、あとムシ、そのイメージのせいで私はビビっているのだ。ひ弱な自分が嫌になる。

でもなぁ、居酒屋で「ミドリムシハイ」というメニューがあったらどうだ。一杯目では頼めない。だいぶ酔って、勢いをつける必要があるぞ。

その「ミドリムシハイ」を、今、私は、誰に命じられたわけでもなく自分の手で作って飲んでいるわけだが、思ったよりいける。メーカーの公式サイトに「昆虫とはまったく異なりワカメやコンブの仲間です」とある通り、海藻っぽい味がする。そしてその味わいに焼酎の風味がふわっと隠されるようである。

次に試したのがカゴメの「野菜生活100 Peel&Herb レモン・レモングラスミックス」だ。「レモンの甘酸っぱいおいしさに、レモングラスを加える事で爽やかな味わいに仕上げました。ビタミンCとクエン酸であなたの元気をサポートします」とのこと。それを焼酎と氷の入ったグラスにドボドボと注ぎ込む。

するとこれもまた旨い。ツイーン!とくるような酸味、そしてハーブの香り、これだけでもう体にいいことしてる気分。割と多めに入れた焼酎の濃さを感じさせない強い味わい。なのでゴクゴクいけてしまう。いいぞ!

最後はキリンの「無添加野菜 48種の濃い野菜」だ。48種類も。こういうのって数字をフォーティーエイトに合わせるために実はたいして必要でもないものが頭数として入れられてるんじゃないのと思うけどどうなんだろう。パッケージに48種類すべての野菜の名前が表示されている。トマト、にんじん、セロリ、アスパラガスなんかは重要な気がする。チコリー、アルファルファもやし、なばな、あたりがどんな仕事をしてくれているのか気になるところだが、でもきっといい具合のバランスを考えて入れてあるに違いない。そう信じることから始まるのだ。何かが。

グラスの中にジュースの中身をあけてみるとニンジンとトマトを混ぜ合わせたような鮮やかなオレンジ。そこに焼酎を足し、紙パックに付属するストローでかき混ぜる。飲む。旨い。予想よりずっと旨い。48種類の野菜たちが、レースの終了時間には間に合わなかったけど必死に走ってきた49種類目の仲間、「焼酎」の健闘をたたえ、あたたかく受け入れている。みんなで肩を組んで笑っている。そんなイメージが浮かぶ。

これ、最高なんじゃないか。「野菜ジュースハイ」を毎朝グッと飲み干して出勤。今日も元気におはようございます!そんな快活な働き盛りの人々が、実はいるんじゃないかと思えてくる。

スズキナオ
スズキナオ
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1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。

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