私は大阪のミニコミ専門書店「シカク」でたまに店番をしているのだが、そのシカクという店が先日、台湾で行われる「ZINE DAY TAIWAN」というミニコミの即売イベントに出展した。大した手伝いはできなかったが、“荷物持ち”みたいな立場で私も便乗して台湾に行ってきた。
台湾は初めてで、というか海外旅行もほとんどしたことのない私なので、「え、夜中に小腹すいたらどうすればいいの!?」とか、地味な心配が頭の中にグワングワン押し寄せて不安に押し潰されそうだったが、今回私が歩いた場所はどこも都会で、なんの不便もなかった。たとえ夜中に小腹がすいたとしても「宿の目の前のコンビニでカップ麺買ってお湯入れればいいだけ」という話であった。
滞在したのは台北の龍山寺(ロンシャンスー)という場所。地下鉄の駅のすぐそばで、その龍山寺は、観光ガイドに必ず紹介されている有名なお寺だ。「台湾随一のパワースポット」みたいに書かれていることがほとんどで、なるほど確かに寺の脇には大型観光バスが何台も停められ、大勢の人が参拝していた。台湾の観光バスは、バスのフロント部に鮮やかな照明が施されていたり、側面に描かれた「○○観光公社」みたいな字やイラストもド派手だったりして、ヤンキー的というか、「いかちぃー!」っていう感じで刺激を受けた。
刺激はそれだけじゃなくて、少し湿気のある路地の空気感。古びた雑居ビルのベランダに草がぼうぼうと生命力をむき出しにしている感じ。渋い字体の漢字が並ぶ看板群。雨でもたくさん走っている原付バイクとそれを運転する人たちが着ている蛍光色の雨具。そこかしこの夜市の賑わいとそこで売られているエネルギッシュで安価な料理の数々。目に鼻に口に飛び込んでくるものすべてがヒリヒリと心の膜を震わせてくる。歩いている人たちの顔も、性別年齢関係なくだいたいみんな好きだ。たった3泊の、しかも台北にいただけの旅で「もう、ミーハーなんだからー!」と自分でも思うが、みんなが最近「台湾いいよ!」って言ってる意味がわかった。全部じゃなくとも、その一端は確実にわかった。
台北を歩いていてあちこちで見かけたのが「小北百貨」という24時間営業のディスカウントストアである。食品から生活雑貨、電化製品、衣類など一通り売っている。宿のある龍山寺にもその「小北百貨」があり、のぞいてみると酒コーナーにニッカウイスキーが売られている。寝酒に買おうかと思ったが、その横に「SIMEX」という銘柄の台湾ウイスキーが並んでいて、そっちの方が安い。500ml入りの細長いボトルで日本円にして350円ぐらい。これを買うことにした。
最近では台湾のウイスキーが世界的にも注目されているらしく、特に「カバラン」という銘柄が有名らしいが、この「SIMEX」はなんだかわからない。検索しても出てこない(台湾のウイスキーじゃないのかな)。値段的にも、とにかく安さが魅力のものなのかも。宿に戻ってそれをミネラルウオーターで割って飲む。痺れる。電気的フレーバー。最高に好きである。台湾滞在中はこれをちびちび飲みながら、「今俺は、世界で割っているなあ」という思いに浸っていた。
その他に飲んだ酒というと、台湾ビールばかりであった。日本のものよりも飲み口がライトで、どれだけ飲んでも「ビールもういいや」という感じにならない。すごく気に入って、そればかり飲んでいた。そんな中、シカクと交流のある台北のマンガショップ「Mangasick」のスタッフであるコウさんとユウさんに連れられていった「先行一車」というレコードショップで飲んだ「高粱酒(コーリャンシュ)」の味わいが印象に残った。
「先行一車」は、「台湾で最もヤバいレコード屋」と評されることも多いらしい店で、ドアを開けるとまず、食べたままの食器がシンクに雑に突っ込まれた台所が目に入り、常時ドア開けっ放しのトイレがあり、物がギュウギュウに詰め込まれた狭い道を抜けた向こうに、大量のレコードがこれまた雑然と並んだり、床にそのまま置いてあったりするような感じだ。店長であり、ここに住んでいるという長髪のワンさんは、友川カズキが大好きで台湾に本人を招いてイベントを開催したり、自身もミュージシャンとして大友良英とインプロセッションをしたりしているという人。ほぼずっと店で酒を飲んでいるそうで、私に「高粱酒」をすすめてくれた。コーリャンというのはモロコシの一種らしく、それを原料に作られた蒸留酒がこの「高粱酒」だというから、つまり普段私が飲んでいる焼酎とかなり近い。ただ、すすめてくれた「金門高粱酒」はアルコール度数が58度ある。ワンさんはそれをそのままコップに注いで飲んでいる。私はおちょこにそれをもらい、グッと飲む。カッと熱いものが喉を通り、その後どこをどう通っていたかよくわかるような強さだ。「毎日これを飲んでいるよ」とワンさん。「私も毎日飲んでいます」と伝えると「どんな酒を飲んでいる?」と聞かれた。「甲類の焼酎。焼酎。コンビニで売っている、大きなペットボトル。味はない」と言うと、ワンさんはハハハと笑い、「それは健康的に大丈夫?」と聞いてくるのだった。
面白い。ワンさん、お互いさまだよ!
(X/tumblr)
1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。
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