読んでは忘れて
『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』

特別編vol.9 スズキナオ初単著をたけしげみゆき・はやと・ヤマコが語る(前編)

好評発売中のスズキナオさんの初単著『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)が早くも3刷!書評連載「読んでは忘れて」の特別編として、スズキさんに縁のある方々が登場する企画の最終回(だけど長すぎるため前後編)。今回はスズキさんの取材記事によく登場するあの三人衆=たけしげみゆきさん、「はやと」ことはやとちリミックスさん、ヤマコさんにお話を伺ってまいりました。

スズキナオと出会ったきっかけ

『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』――本日は宜しくお願いいたします。まずは、みなさんがスズキさんと知り合ったきっかけを教えてください。

はやと ナオさんと初めて知り合ったのは「酒処ナオ」ですね。

※酒処ナオ:たけしげさんが代表を務める書店「シカク」が中津にあった頃、お店の2階で月イチで開催されていた、スズキさんがホストを務めてゲストやお客様とお酒を飲んだり語らったりするイベント。こんなステッカーもありました。

はやと それまでもシカクにはよく行っていたけど、僕が行ける土日にナオさんがいるのを見たことがなくて。知ってはいたけど、それは“チミドロのスズキナオ”で、“ナオさん”になったのは酒処ナオからですね。

――はやとさんとしては、「ナオさんに話しかけたろう!」という思いはあったんですか?

はやと それは…そうですね(笑)。

たけしげ ちなみに誰がゲストの回でした?

はやと 最初の回ですよ。1月、ナオさんの誕生日の。

たけしげ あー、一番ごちゃごちゃしてた回ですね(笑)。

※第1回酒処ナオは、大阪でチミドロのライブがある前日に開催され、初回で内容も探り探りの中、東京からチミドロのイチノミヤさん、ジュンヤさん、ハナイさん、ミヤマさんが参加。さらに、スズキさんがダメ元で声をかけてみたCASIOトルコ温泉のみなさんも参加され、ホスト側のゲストだけで10人近くいる状態で開催。イベント中はパソコンをプロジェクターに繋いで色々な動画を見たそうで、スズキさんは後ほど日記にて「YouTubeのおかげで間がもった」と振り返っている。

ヤマコ ハヤトさん多分、唯一の酒処ナオ皆勤者じゃないですか?

はやと そういえば僕、ヤマコットさんともそこで知り合ったんですよね。

※ヤマコット:ヤマコさんのTwitterアカウント名。ヤマコさんの愛するゲームメーカー・ナムコがかつて使用していた、家庭用ゲーム機ソフトのブランド名「namcot」に由来。はやとさんはヤマコさんを呼ぶとき必ず「ヤマコットさん」と発語する。スズキさんの日記でも、知り合って間もない時期は「yamacotさん」「ヤマコットさん」との表記が。

――ヤマコさんは大阪で開催されるスズキさんのイベントは皆勤というイメージがあったので、不参加の回があるのが意外でした。

はやと 確か会社の健康診断とかありましたよね。

ヤマコ ですね。お酒が飲めないのは辛いので(笑)。

――ちなみに、ハヤトさんが“チミドロのスズキナオ”を知ったのは?

はやと それもシカクからですね。そんなスタッフがいると知って、調べてみて「これがチミドロかー。へぇ~」と。

――「へぇ~」と今の深いお付き合いとでは、少し距離を感じるのですが、スズキさんに会いに行ってみようと思うきっかけはあったんですか?

はやと 当時暇だったからですかね(笑)。

――なるほど、いい理由ですね(笑)。ヤマコさんはどんなきっかけでスズキさんと?

ヤマコ パリッコさんがシカクでやった個展の、飲み会イベントのときですね。

※2014年10月12日から10月26日まで、シカクにて酒場ライター・パリッコさんの個展「酒とたぬき展」が開催された。「飲み会イベント」とは、10月13日に開催された飲み放題インストアパーティー「居酒屋パリッコ in 大阪」のこと。

たけしげ 私もほぼ同じタイミングです。厳密には、ナオさんと初めて話したのが飲み会で、その少し前にナオさんがシカクに来て、何もしゃべらずに帰っているんですよ。

はやと その話、知ってます(笑)。

たけしげ ある日お店をオープンした瞬間に知らないおじさんが来て、店内をうろうろして、5分くらいで何も買わずにそのまま出ていって。「え、今の人なに?怖っ…」って(笑)。

――怖がらなくても(笑)。

たけしげ いや、その後「シカク」でTwitterのエゴサーチをしてたら、「あの人がスズキナオさんだ」ってわかったんですけど、事前にパリッコさんから「僕の友達のスズキナオさんという方が、今度大阪に引っ越すので紹介していいですか?」と言われていたんです。だから話が通っているのに「なんで何も言わへんのやろう」って思って(笑)。

はやと それは確かに、一言くらい何か言ってもいいかも。

たけしげ なので、Twitterのリプライで「スズキナオさんだったんですね。何か言ってくれてもよかったのに!」って送って。それがファーストコンタクト。後日、飲み会のときにちゃんと言葉を交わしました(笑)。

――ヤマコさんは、パリッコさんの個展の前からスズキさんのことは知っていたんですか?

ヤマコ 名前とお酒好きってこと、書いてる文章なんかは知っていたんですけど、まだちょっと怖い人というか…、「チミドロ」のリーダーですし。

一同:(笑)

ヤマコ どんな人なんだろう、っていうのはありました。でも、会ったら一目見て「いいお兄さん」ってわかるじゃないですか。

――だけどたけしげさんは「怖い」って(笑)。まあ年齢差とかもあるか。

たけしげ そういうの以上に、シカクにわざわざ来てくれる人って、滞在時間が長く、店員や作家とおしゃべりするのが目当てな人も多いんですよ。だけどナオさんは、オープン時間に合わせて入ってきたのに、さっと見て滞在時間5分くらいで無言で出ていったので「ええっ?」って驚いたのが大きいです(笑)。

「読んでは忘れて」特別編vol.9・前編
怖かったあの人とも、今ではこーんなになかよし!

はやと その頃ってみなさん、ナオさんがライターっていうのは知っていたんですか?

たけしげ 私はパリッコさんから聞いていたので。

ヤマコ 僕は職業ライターとは思ってなかったかも。でも文章や、血ブログは読んでました。

はやと みんな詳しい!僕、出会うまでのナオさん全然知らないです。一人だけにわかファンみたいじゃないですか。

――はやとさんはその乾いた感じがいいと思います。スズキさんの取材に同行して「僕黒酢嫌いなんで」と言えちゃうあたりがロックンロール・クレイジーボーイだなと。

※スズキさんが執筆したこちらの記事の取材に同行したはやとさんは、羊肉の水餃子を食べて「クセがすごい!」、サービスで出されたニンニクの黒酢漬けに「僕黒酢嫌いなんでいりません」といったパンチラインを連発。黒酢の件はことさら出版のフェイバリット・クレイジーボーイ・エピソードです。

はやと「意外とフットワーク軽いなと(笑)」

――『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』で、特に印象に残った部分はどこですか?

はやと 僕にとってナオさんは大阪の人って印象だけど、深夜バス乗ったり、フェリー乗ったりして色んな所行ってるなあ…と、Webで記事は見てたけど改めて思いました。意外とフットワーク軽いなと(笑)。

――意外ですか(笑)?たけしげさんはいかがでしょうか。

たけしげ 私はまえがきですね。どれも全部面白いんですけど、まえがきにある「考え方次第で、なんでもない日々を少しぐらいは楽しいものにすることができるという思いは確信に近い」っていうのが。

はやと そこ、すごくいいですよね。

たけしげ そういう、派手だったり、人に言って回ったりするようなことではないけど、自分なりの工夫でちょっとずつ楽しく生きていこうよ、みたいな全編に通底するメッセージを端的に言い表しているなと。

――名序文ですよね。

たけしげ 私、シカク出版の『酒の穴』の序文もナオさんにお願いしたんですけど、言葉にしにくい「酒の穴」の説明もまた端的にされていて、まえがきが上手なのかなと(笑)。

※スズキさんとパリッコさんが結成した酒飲みユニット。シカク出版の『酒の穴』以外にも、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)を上梓。デイリーポータルZでは酒の穴による共著記事も多数発表している。

――たけしげさんの話を聞いて思い出したけど、私も『酒の穴』まえがきを読んだときかなりやられて、「この本もう買った甲斐がある。ありがとうシカク出版!」と思いました。

たけしげ (笑)。そんなわけで、ちょっとズルいかもしれないけどまえがきを選びました。

――ヤマコさんはどうでしょう。

ヤマコ うーん、全体的に好きですし、読み応えがあって時間をかけて読了したんですけど、割り勘の章があるじゃないですか(※P209~「唐揚げ何個食べた?」レベルまで飲み代を厳密に割り勘する飲み会はどうか)。あそこ、参加者のみなさんのセリフで大部分が構成されてますよね。そこで、ナオさんのセリフだけを追って読むとメチャメチャ面白いんですよ。

たけしげ えー!

はやと どんな読み方してるんですか(笑)。

ヤマコ 変な読み方ですけど、人格が出ているというか。本人のセリフなのでナオさんの自己紹介にもなっているような。たとえば、「カレーって、カレーというかご飯って食べるの大変じゃないですか?」とか言ってるんですよ。最高のフレーズ。

はやと そこだけ切り取ったら意味わからない(笑)。

――確かにスズキさんは大の麺党で、ご飯は滅多に食べないんですよね。

(実際にヤマコさんの言う読み方で、該当箇所のスズキさんのセリフだけを続けて読んでいます)

――なるほどー。なんとなくわかる気がします。ちょうど先日のスタンドシカクでSPが出勤してしまった件を受けての連続ツイート※※に、スズキさんの人格を強く感じたのですが、それに通じるものがありますね。

※「スタンドシカク」は、シカクで1〜2か月に一度、19時〜23時までの夜間営業と合わせて、店内のギャラリースペースにて実施される立ち飲み会のこと。当然ながら、書店の中で泥酔などするお客様が出ては大変なので、様々な諸注意の元に開催されており、困ったことが起きるとSP(シカクポリス)が出動することになる。

※※以下のツイート参照。

ヤマコ あー、あの現場にナオさんがいなかったのも含めて、なんかリアルな感じがしましたね。

たけしげ 私、その次の日にナオさんに会って、スタンドシカクでの話をしたら、その後にあのツイートがあったんです。日頃のナオさん、シカクスタッフとしての意識は低いんですけど(笑)、非常に深刻に受け止められてて。

はやと 僕もあれを見てビックリしたんですよ。

たけしげ それで、「どうしてそんなに落ち込んでるんですか?」って聞いたら、「僕はシカクの酒担当っていう自覚はあるんで」って。

はやと めちゃくちゃいい話じゃないですか。

たけしげ そうなんだけど、「そうだったっけ?」って思っちゃって。初めて聞いた(笑)。でも、ナオさんが来るまではお酒系のイベントやったことなかったし、「自分がもたらした文化」という自負があったのかもしれない。ただ、ナオさんおらんかったから、別に責任を感じる必要はないんですけど。

「読んでは忘れて」特別編vol.9・前編
酒担当の勇姿

――「シカクの酒担当」、これからは押し出していきましょう。しかしヤマコさん、すごい読み方見つけましたね。

ヤマコ でも、流れで読んでても、ここのナオさんのセリフは目立って見えて。それで、そこだけ読んでみようと思ったのかも。

はやと わかります。僕らと飲んでるときのナオさんとちょっと違うなと。

たけしげ トスを上げている感じはしますね(笑)。

――バランスを取ろうとする意識、すごく出てます。

はやと あと、読んだとき「ナオさんは東京の友達とこういう飲み会をしていたんだ」って思いましたね。

――なるほど。みなさん仲良くされている方だろうけど、古賀及子さんやパリッコさんは仕事相手でもあり、ラズウェル細木先生も飲み友達ではあるけど尊敬する立場で、ぬっきぃさんはほぼ初対面だった気もするし。少しよそ行きのスズキナオであったのかもしれません。

はやと よそ行き(笑)。

――全然よそではなくて十分砕けているのかもですが、みなさんと飲むときはさらに砕けていそうな。

たけしげ 確かに、この割り勘飲み会でブラックナオさんは出てこなそう(笑)。

ヤマコ そうですね、アクセルはまだそこまで踏まれてない。

――ブラックナオを見られる関係性になりたいです(笑)。

たけしげ「見たものがそのまま垂れ流しになってる感じ」

はやと バランスといえば、書評でも書いたけど、まえがきにあるように楽しくしていこうとする中で、悲しいことも書かれていて。お店が閉まったりとか、神戸のお店の阪神大震災の影響だとか、そういうのも詳しく書いているのがすごいなって。

たけしげ 私がナオさんの文章で本当にすごいと思うのが、Webで発表される文章って、書き手が「こっちに持っていきたい」という思いが透けて見えるものが多い気がするんです。たとえば「このお店が最高だからみんな行きましょう」とか、「こういう会社があるのでみんな注目してね」とか。でも、ナオさんの記事ってそれがまったくなくて。対象に魅力を感じて、その記事を書いているのは大前提なんだけど。

――事前の想定はある程度していることもあるのかもしれないけど、帯で岸政彦さんが書かれている、知らない人から話しかけられる力などによって何かが必ず起きるので、想定を超えたものが記事に入ってくるのかも…。

たけしげ 大体こうなるやろうな、って流れから、いつも微妙にずれたところが来る。どうなるかわからない。

――スズキさんは“ライター”というよりも“文学者”だと思います。

たけしげ 岸さんの「これが生活史だ」っていう帯文、本当にそう思います。ナオさんが「こんな人がいるんですよー」とアピールするんじゃなくて、ナオさんが見たものがそのまま垂れ流しになってる感じがして。

ヤマコ うん。

たけしげ そこまで自分を殺せるのがすごいなって。

ヤマコ ナオさん、以前トークイベントで「自分が聞きっぱなしになっているのが恥ずかしい」って言っていたんだけど、ちょうど昨日も取材に付き合っていて、ナオさんが黙っていても、相手がずっと喋り続けてくれる。あれは高度なスキルだと思うんです。

――そう思います。聞くのが一番難しい。

ヤマコ ナオさんも、沈黙が流れたら、嫌だとは思うんでしょうけど。

――でも、沈黙を埋めるためだけに話すことはしない方なのかな、と。そこで無理に話そうとすると、たけしげさんの言う作為のようなものが入ってしまうような。無駄な言葉を発さず聞くのに徹することができる、「待ち」の人だと感じますね。

たけしげ うん。

――ただ、「自分を出せる」のはWebライターにとっては能力のうちで、評価される要素でもありますよね。言いたいことを伝え、想定したオチに持っていき、書いた本人の人気が上がるような。それは全然悪いことじゃないと思うんだけど、スズキさんのようなライターは滅多にいないと思います。

たけしげ 本当に異質な感じがします。Webライターでいるのが不思議。文筆家だと思います。

後編に続きます!>

たけしげみゆき
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インディーズの本やミニコミ誌、CD、雑貨などを販売する大阪の書店「シカク」の店長。酒の穴『酒の穴』などを出版しているシカク出版、チミドロのアルバム『なのかな?』をリリースしたシカクオンガクの代表も務めている。
はやとちリミックス
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スズキナオの食べ比べ系記事や旅行記事などに「はやと」としてたびたび登場するロックンロールクレイジーボーイ兼会社員。宅録系パンクロックミュージシャン「はやとちリミックス」として1stアルバム『はやとちリミックス』をリリース。スズキ氏とも関わりの深い大阪の書店「シカク」にて発売中
ヤマコ
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飲酒家兼シカクの常連兼会社員。その酒センサーの鋭さと、酒の穴の二人のメディア情報・イベント情報の網羅ぶりで一部好事家(主にことさら出版)より関西若手飲酒シーンの最終兵器と目されていたが、ロフトプラスワンWESTで開催された「この居酒屋がヤバい!」にて出演者側デビューを果たし、2020年8月5日発売の酒の穴が監修する新しい飲酒と生活の本『のみタイム』(スタンド・ブックス)では文筆家デビューを果たしている

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