読んでは忘れて

第63回 pha『パーティーが終わって、中年が始まる』

pha『パーティーが終わって、中年が始まる』先日、東京・高円寺の書店「蟹ブックス」で「スズキナオさんとお酒を飲みながらドンジャラ(とパネルでポン)をしようの会」という催しがあって、行ってきた。

行ってきたというか、「蟹ブックス」のスタッフでもある文筆家のphaさんから「お店でドンジャラをする会をやりませんか」と連絡をいただき、それで私が東京に行くタイミングに合わせて日程を調整してもらって開催されたのがその会だった。

以前、「蟹ブックス」に呼んでもらい、店主の花田菜々子さんと前半の少しだけトークをして、後はそれを見に来てくださった方々と一緒にゲームしたり談笑したりして過ごした日があって、それが結構楽しかったので、今度はもう、トークも何もなし、ただみんなで集まってだらだら遊ぶだけ……という、より洗練された形態へと進化したのである。

お店で用意してもらったドンジャラ(ドラえもんのやつ)を参加者のみんなと代わる代わるやったり、ニンテンドースイッチを繋いだモニターでゲームをしたり、テーブルの上に並んだお菓子を食べたりお酒を飲んだり、「こんなにだらだら楽しいだけでいいんだろうか」と思うような楽しい時間だった。テンションが上がってウオー!と叫んで小躍りするような、そういう楽しさという感じではなく、お正月に時間を持て余してゲームをしているみたいな、そういうしみじみとした楽しさだった。帰り際、phaさんから新刊のエッセイ集『パーティーが終わって、中年が始まる』をいただき、翌々日、大阪に新幹線で帰りながらそれを読んだ。

「普通の中年になんかなりたくなかった」と題されたまえがきのような文章の中で、phaさんはこう書いている。

お金よりも家族よりも社会的評価よりも、とにかくひとりで気ままに毎日ふらふらしていることが、自分にとって大切だった。だから定職にもつかず、家族も持たず、シェアハウスにインターネットで知り合った仲間を集めて、あまり働かずに毎日ゲームとかをして暮らしていた。世間からダメ人間と見られても、全く気にしていなかった。いつまでこんな感じでやっていけるのだろう、ということは、あまり真剣に考えてはいなかった。わからないけど、まあなんとかなるんじゃないか、と思っていた。四十代半ばになった今、つかまってしまったな、という感覚がある。何に? 世間に、だろうか。それとも、老いに、だろうか。何をするにも少しずつ足取りが重くなっていて、昔のように自由に動けなくなってきているのを感じる。

この感じは、すごくわかる。本のカバーに書かれたphaさんのプロフィールを見たら1978年生まれで、自分とほぼ同い年であることがわかった(私は1979年の早生まれなので、学年は同じだったかもしれない)。まあ、歳がほぼ同じだからといって、境遇は違うし、体や心の特性も違うし、仕事や家族など、生活環境のベースみたいな部分も違うから、「わかるわかる全部わかる!」ってことはないのだが、自分と重なる部分がいくつもあるように感じられた。

「読んでは忘れて」第63回

「中年の不要な存在感」という文章の中の一節。

年をとってから身だしなみに少し気をつかうようになったのはそのせいだ。少しでもうっとうしさを軽減したい。

中年以降の男性がだらしない格好をしていると、なぜ危険な雰囲気になってしまうのだろうか。周囲を怯えさせないためには、ある程度のこざっぱりさを身につける必要があるらしい。面倒だけど。

と、この、歳をとってきた自分の“うっとうしさ”についても、自分が日ごろからよく感じることである。若かったある時期までは髪を切りに行くのが面倒で、物理的にボサボサ過ぎて困るまではそのままにしていた。けど今は1か月か1か月半ぐらいに一度は美容院に行く。出費としては大きいのだが、髪の毛をこざっぱりしていると、自分の存在のうっとうしさが軽減される気がして、すっきりするのだ。なんだろう、この感じは。素敵になりたいというより(もちろん、素敵な印象の人になれたらそれはそれで嬉しいのだが)、嫌な感じではなくなりたいみたいな。

phaさんは長らくシェアハウスで複数の人たちと暮らしてきたという。それも、ただ友達数人と一つの居住空間を共有するようなあり方ではなく、場所自体をオープンにして、いつでも誰かが気軽にそこに入ってきて、また好きな時に出ていけるような場にして、そこに住んでいる、というスタイルを続けてきた。そのことも本書にたくさん書かれている。

「すべてを共有したかった」の一節。

昔は、自分という存在が薄く広く、シェアハウスやインターネットという空間に開かれていた。自分と他人との境界線が薄くて、自分のものはみんなのもので、そしてみんなのものは自分のものだ、それが理想的な状態なのだ、と感じていた。昔は曖昧だった、ここまでが自分でここからは他人だ、という境界線が、今ははっきりとしてしまった。

phaさんはシェアハウスにも、20年前とか10年前のインターネットの感じ(「みんなの知が一つになって、世界と繋がって、なんか面白いことが起きていくぞ!」みたいな)にも、すごく開かれた可能性を感じていて、それが楽しかった。その中でいつまでも気ままに楽しんでいたかった。それが、40歳になる頃に“自分はそろそろ卒業するのもありだろうか”(「変な家にばかり住んできた」)と思って一人暮らしを始めることにして、“人類にはネットは早すぎたのだ”(「ウェブ2.0と青春」)と書く。

もちろんphaさんは「シェアハウスは時代遅れ」とか「インターネットはつまらなくなった」とか言いたいわけではなく、自分が年齢を重ね、自分が感じていた形の可能性と自分との齟齬を見出したということだろう(今の、これからの若い人はそれぞれにその時の状況を楽しんでいくだろう)。居心地のよかった場所にずっとは居られないことがわかってきた、というような。

私は30代半ばまで会社員をしていたのだが、入社当時は“とにかく何やっても不器用で、おまけにやる気もなくてどうしようもない社員(笑)”という感じで存在していて、それはそれとして、その評価にさえ慣れてしまえば居場所があった(というと図々しいか)のが、30代を超えてきたあたりから、(笑)が消えて、上司たちの態度が「いや、本当に、どうするの?しっかりしてもらわないと」みたいな風に変わってきたのを感じた。

ダメ社員としてへらへらしているのが許されなくなってきたのを感じ、それでもその場に居続けるには、本当に努力して立派な社員にならないといけない。結局、それは無理で、それで会社を辞めたところがある。その経験に重ねると、年齢の変化で居心地が変わってくる感覚がわかる。

で、私はそこから逃げるようにしてライター活動を始めることになったのだが、これはこれで、またphaさんの言う「つかまってしまったな」の状態に近づきつつあるのを感じている。この先はどこに逃げればいいんだろう。逃げ場はあるのだろうか。

というこの先のことは別として、phaさんのこの本のように、歳をとって変わってきてしまった部分を表現するのは勇気がいることだと思う。「歳を取ったのに全然変わらず元気!」とか「年齢を感じさせないほど美しい!」というようなことばかりが良しとされて、歳をとることに対する愚痴(というか素直な思い)を言ったり書いたりすると、「そんなこと言ってないでさ」と、いなされるような、そんな感じがある。でもそういう、うんざりするような気持ちは確かにあって、近いことを感じている人はたぶん多いのではないか。

現実のままならなさを隠すように前向きな感覚ばかりが世界を覆って、本当に思っていることが言いづらいというムードを日ごろから感じているから、phaさんのこの本はすごくしっくりきた。そして、あのドンジャラをしながらだらだらした時間が無性に恋しくなってきた。

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スズキナオ
スズキナオ
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1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』(共にスタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。

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