幼いころ神戸に住んでいた。震災により引っ越すことになってしまったが、今でも当時仲良くしてくれていた友達とその家族のことを思い出す。自分と他人の区別がなく、ジメジメしていなくて乾いた感じの優しさ。幼稚園の先生から「『どいて』っていうとキツいから『のいて』って言おな~」と関西弁を教わったときは衝撃があったが、そうして一つずつ関西弁を覚えていくことで自分も関西方式のコミュニケーションができるようになっていったように思う。
東京に来てからは関西に全く赴いていなかった。関西弁も忘れて通勤電車を乗り降りする日々だったが、ここ数年で演奏のお願いを受けるようになって再び行くようになった。そこはやはり居心地がよかった。いまの東京にはない、都市の余白をたくさん感じた。住む人たちがその余白で上手に遊んでいるように見えた。そう感じることができたのは、関西に行くといつも遊んでくれるナオさんと、ナオさんのお友達のおかげ。みんなの視点を借りることで街になじむことができた。
ナオさんと飲みに行くといつも楽しい。それは、ナオさんがいろいろな方面に気を配ってくれているおかげだし、なによりモノやヒトの見方のプロだから。普通発見できないような隠れた店や看板、乗り物をつぶさに探し出す視点を共有することで、自分の感性も回復させてくれる。
以前ナオさんと飲んだ時、「分り手」の話をした。本当に些細な話も乗ってくれるので、共感できないものはないんじゃないかという内容。しかし究極の「分り手」は、何も分からないということが分かるという結論になって大笑いした。あと、酒を飲んでいるほうの人格を鍛えるという話。酒の席で自分も楽しく、周りも楽しくいるにはどうしたら良いのか、という内容。そうした小さな話を転がして何時間も飲んでいる時間が本当に楽しい。
この本は実践書だ。ナオさんの視点、興味の持ち方、考え方を紹介してくれている。大げさかもしれないけれど、この本を読んで自分の日常にかえってくれば、隠された楽しみを発見できるようになるのではないか。どこに住んでいてどんな生活をしていても、言葉のかけ方とか身の置き方を少しずらすだけで、思いもよらなかったものが見えて、またそれを受け入れることもできる。そうした視点を、やさしい文体で教えてくれている。
今のナオさん、予約が取りづらいことで有名ですけれど、機会があったらまた飲みましょう。
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