人は誰しも必ず中年になるわ。
皆がいずれ中年になる。
そして当然、ラッパーも中年になるわ。
ラッパーもキャリアが長くなって作品数が多くなってくると自ずと「何をラップするか」という根本的な問題に突き当たって行くわけよ。
若い頃と変わらずヒップでホップなトピックスでバースを埋めるラッパーもいるし、プロデュースや歌詞提供など違う方面に手を広げるラッパーもいるし、年齢に応じた社会や政治的なテーマを入れるラッパーもいるわよね。
歳をとっても続けられる方法の一つに「自分の日常をラップする」という普遍的な手法が存在するんだけどこの日常ラップで今、一部のヒップホップヘッズを驚かせてる最新アルバムがMETEOR & CHIN-HURTZ『しかしあれだな』よ。
特に驚きの内容なのが2曲目「悪霊退治 part.18」!
まずこのpart.18について説明しなきゃならないんだけど、急に曲にパート18とかつけちゃうっていうギャグじゃなく、マジで悪霊退治っていうシリーズの18曲目なのよ。
そうよ、長いのよ。
虎舞竜のロードと同じと考えてもらっていいわ。
かつて日本語ラップの世界で長いシリーズといえばラッパ我リヤの「ヤバスギルスキル」という曲があったんだけど、これが95年にスタートして10曲目の「ヤバスギルスキル10 feat.韻踏合組合」が2017年。足掛け22年なわけよ。
それに対してこの悪霊退治シリーズはスタートが2019年で、しかもこのアルバムにpart.25まで収録されてるから…たった3年で25曲!
悪霊を退治するっていうテーマのストーリー曲だったんだけど最近は何でも無理矢理悪霊に絡めて曲にするっていう、やりすぎ都市伝説みたいな味わいのあるシリーズなのよね。
この曲のメテオのバースの始まりはこう。
鬼滅の刃、終わっちまったな。
もう呪術廻戦とチェンソーマンしか読んでる漫画ない。
他のも多分読んだら面白いはずだがマジその気力がない。
そういやワールドトリガーもこないだ4巻まで無料だったから読んだが面白かった。
…これ、その辺の一般人の大学生が喫茶店で友達と世間話してるわけじゃないのよ。正式にリリースされたラッパーのラップなのよ、これが!
日常をラップすると一口に言ってもこんなにも超・日常的な事っていうか、ミクロな視点というか、無駄話というか…つまり思ったままのどうでもいい事をラップできるラッパーは他にはいないと思うのよね。
ちなみに何でこの曲が悪霊退治なのかっていうとフックで「もしかして 取り憑かれてない? 少年ジャンプに取り憑かれてない?」と無理矢理ジャンプを悪霊と絡めてきてるわけよ。この真面目な話っぽい空気で与太話を披露してくる親戚のおじさんみたいなスキル、まさに正統派中年ラップだわ!(2022年1月配信リリース)
『しかしあれだな』配信サイト
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(X/PIXIV FANBOX)
1982年、岡山県出身。2004年、『未来は俺等の手の中〜J.P. STYLE GRAFFITI〜』で、第67回手塚賞準入選。著書に『魔法の料理 かおすキッチン』全3巻、『ダークアクト』全1巻、『今日のテラフォーマーズはお休みです。』全6巻(全て集英社)。現在は「COMIC OGYAAA!!(コミックオギャー)」で『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』を連載中、単行本はseason10まで刊行中(ホーム社)。2017年に6代目作画担当に就任した「日ペンの美子ちゃん」の公式Twitterに掲載された漫画の単行本『6代目 日ペンの美子ちゃん』(一迅社)も発売中。
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