美ー子ちゃんの今週の一枚
神門『エール』

第4回 神門『エール』

神門『エール』

最近売れてる自己啓発書といえば西野さんとホリエモンの共著『バカとつき合うな』なんだけど、その中の「善意ならなんでもアリのバカ」という項目で西野さんが『風が強い日に倒れまくってるチャリを片っ端から起こしているオバチャンがいて、さすがにガマンできなくなって起こしたやつを片っ端から寝かせていったんです。そしたらオバチャンからめっちゃ怒られて…!』っていうなかなか衝撃的なエピソードがあるのよ。要するに「わざわざ起こしてもまた倒れてまうやろ!」って話で、善意でなんでもやるのは思考停止や!っていう主張なのね。言いたい事はわかるんだけど…意識高い系の人達のちょっとアレな感じも存分に発揮されてるエピソードよね。

で、ここからが本題なんだけど、この本が出た一週間後にリリースされた神戸のラッパー、神門の9枚目のアルバム『エール』でもなんと全く同じ内容の話が歌われてるのよ…!多分、本当に偶然だと思うんだけど。
このアルバム2曲目の「光景」って曲の歌詞で、
『風が強い一日で あちこちで自転車が倒れている 電気自転車は己の重さで後ろカゴなどが割れている 無残な姿に起こしてあげようと手を伸ばしかけはっと止める 冷たく感じた光景も実は優しさが支えてたりする』

…どうかしら?西野さんとほぼ同じテーマを曲にしてるんだけどこの……心の暖かくなるような言い方!
言ってることは同じなのに!

神門の最新作『エール』はとても特殊なアルバムで、韻を踏むっていう事を極力捨てて、ラップらしさよりこういう色んな「普段の生活で気づいた人間の暖かさ」「ふとした時の自分の感情」みたいなエピソードを持ち前の感性でとことん描写していく作品になってるのよ!

『メニューの表記は"レバニラ"やのに「ニラレバ」と言われ「レバニラ」と通さず「ニラレバ一つ」と通したホール こういうのが優しさやと思う』
『サイゼリヤのドリンクバーで段取り悪くコーヒーを入れてるおばちゃん 「早よせーや」と待ってると急に振り返り「この店いいねー」と俺に言う そこからサイゼリヤ談義に花咲き段取りの悪さはどーでもよくなる 景色をくもらしていたのは人ではなく 眉間のしわだった』(M2.「光景」)

『愛想の悪い店員に腹が立つのは「お客様やぞ!」と思うからではない 「お前の番やろ!」と思うのだ その店員も客の立場だった時があり 客として店員に愛想よくされたはずだ やったら自分が店員として働く時はその愛想をちゃんと返せよ バトンがうまく回らんやんけ』(M13.「半径」)

『インタビューに友達が答えてて「俺の名前出してへん?」顔から火が出るほどの助平さ ちゃうねん 俺は俺やから俺がいつも見えてるだけで 人からは俺なんて見えてないねん』
『「この子、ボクの知り合いでアドレスも知ってて 何回も飲みにだって行った事あるんすよ」「ラップをやめる」っていう台詞以上に「ラップをやめる」って言葉があるとすれば きっとそれがそうだ』
『後輩のラップに"俺っぽさ"を感じ それをひそかに支えにしてる自分は惨めだ 出発点をいちいち気にしてるのは どこにも辿り着けていない負け犬だけだ』
『同窓会で昔「音楽の方はどう?」と気を遣って 話題振りをしてくれた友達が 今じゃ気を遣って音楽の話題にならんよーにしてる そんな時に分かりやすい成功に飢える』
『なんであれが売れんねん!顔がええだけやん?世間の無反応がまた物を書かせる あらゆる世界で燻ってる人達よ 「いいものを作ろう」』(M12.「エール」)

韻を踏まないラップ、ラップらしくないラッパーの作品って一部のリスナーからしばしば批判の対象になるんだけど、私は優れたラッパーの武器って兎にも角にも「言葉」だと思うのよね。

たとえ韻を踏まなくても、こういう優れた感性やセンス、言葉の力を武器に勝負してく事って全然可能じゃないかと思うわ。特に神門みたいな、若い頃からずっと類まれなる感性で、細やかな感情まで言葉で描写してきたタイプのラッパーは、ね!
応援してるわ。(2018年11月リリース)

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服部昇大
服部昇大
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1982年、岡山県出身。2004年、『未来は俺等の手の中〜J.P. STYLE GRAFFITI〜』で、第67回手塚賞準入選。著書に『魔法の料理 かおすキッチン』全3巻、『ダークアクト』全1巻、『今日のテラフォーマーズはお休みです。』全6巻(全て集英社)。現在は「COMIC OGYAAA!!(コミックオギャー)」で『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』を連載中、単行本はseason10まで刊行中(ホーム社)。2017年に6代目作画担当に就任した「日ペンの美子ちゃん」の公式Twitterに掲載された漫画の単行本『6代目 日ペンの美子ちゃん』(一迅社)も発売中。

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