強い言葉で発言するのがブームだと思うのよね。
でもたまに「この強い言葉で本当に相手を変えられてるのだろうか?」とも思うわけよ。
ただお互いの仲間内の結束が強くなっていくばかりで、意見の断絶は深まって行ってるばかりなんじゃないかって。
ヒップホップってものも特に近年はMCバトルやラップブームなんかの影響ですっかり「いかに強い言葉で相手の意見をねじ伏せ、そして勝つか」を競うスポーツみたいに思われてるわよね。今風に言うなら「いかに論破するか」よね。ひ〇ゆきよね。
しかし私たちがもう何十年もハマってるヒップホップって果たしてそんな程度のものだったっけ?
そもそも何故私たちはこの音楽にハマったんだっけ??
という事を最近よく考えるのよね。
考えてみるとやっぱり「いかに強い言葉で相手をねじ伏せるか」ではなく「いかに思慮深くしたたかに、それでいて柔軟に全く違う視点で物事を考えられるか」を学んだ気がするのよねヒップホップから。
そういう、外側から無理やり変えていくんじゃなくて、自然に己の内側から変わっていく、みたいな?
決して「こうしろ!」って事じゃなく「考えろ」という事を教えられてきた気がするわ。
そしてこの時代に、その柔軟なヒップホップを見事に体現しているのがLIBROの三年ぶりのニューアルバム『なおらい』よ。
なごやかな気分でスッと聞けるけどメッセージが薄いわけでもない、けど押しつけがましくもなく、内容も決して単純でも簡単でもないけど決して難しいわけでもない、個人的な視点のようで全体的、今っぽくないようでものすごく今っぽい、チル感もあって優しくておだやかなようだけど希望にも燃えているという…実に絶妙なバランスのアルバムよ。
LIBROならではとしか言いようがないわ。まだまだ学ぶことが多いわヒップホップ。
最後に7月に配信されたCARREC「SONIC WINGS feat.LIBRO」のLIBROのリリックを引用させてもらうわ。
確かに 表情には出さないがいろんなシーンでいろんな考えが渦巻いて忙しい
実生活と形のない営み せめぎ合う頭の中 実に忙しい
おれはアリの巣から宇宙の果て 人の起源から死後の世界まで
夢の中の夢や神の神 無限ループで見えない旅の終わり
そのたぐいのロマンもくだらない疑問に過ぎないのかもね
埋まらない溝にも針落とせば音楽になる
これがこの文化の核になる部分
真実しのばす昔話のように機能分断に橋渡し
境界を超え音が伝わってくとき 隠された点がつながってく風に吹かれ目を覚ますには良いきっかけになったろ
思いがけず動けぬまま一夜を明かす羽目になった夜
行こう 行こう 行こうぜ 音速飛行のまま
来る日も 明くる日も
(2021年9月リリース。「SONIC WINGS feat.LIBRO」は2021年8月リリースのCARREC『HISTORY IN COM 1』収録曲)
『なおらい』通販サイト
Amazon/HMV/TOWER RECORDS/WENOD RECORDS
(X/PIXIV FANBOX)
1982年、岡山県出身。2004年、『未来は俺等の手の中〜J.P. STYLE GRAFFITI〜』で、第67回手塚賞準入選。著書に『魔法の料理 かおすキッチン』全3巻、『ダークアクト』全1巻、『今日のテラフォーマーズはお休みです。』全6巻(全て集英社)。現在は「COMIC OGYAAA!!(コミックオギャー)」で『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』を連載中、単行本はseason10まで刊行中(ホーム社)。2017年に6代目作画担当に就任した「日ペンの美子ちゃん」の公式Twitterに掲載された漫画の単行本『6代目 日ペンの美子ちゃん』(一迅社)も発売中。
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