美ー子ちゃんの今週の一枚
田我流『Ride On Time』

第9回 田我流『Ride On Time』

田我流『Ride On Time』

「宮のスーパースター」から「日本語ラップ界のスーパースター」まで彼を押し上げた正真正銘のクラシックアルバム『B級映画のように2』。
アルバムタイトルは知らなくてもみんな「やべ〜勢いですげー盛り上がる」ぐらいは知ってるでしょ?
あれから待ちに待った7年ぶりの3rdアルバムがこの『Ride On Time』よ。

私は音楽なんて作った事ないけど、客観的に見てても一番難しいだろうな〜といつも思うのが「クラシックアルバムの次のアルバム」だと思うわ。
特に日本語ラップの世界なんて、前の作品が当たったからって次の作品がバンバン広告打てるほど予算があるわけでなし、かといって期待はされてるし、こりゃ大変だわね〜って感じよ。スランプになったり病んでしまうのもわかるわ。田我流もスランプだったって言ってたしね。

『B級映画のように2』は、私も2010年代の最重要日本語ラップアルバムだと思ってるぐらいで、聞いた事ない人は是非聞いて欲しいんだけど、ユーモア、日常、怒り、笑い、愛、若者の気持ち、孤独、社会、政治、DIY、ECD、地方、世界なんかが渾然一体となってその全てがヒップホップで表現された名作よ。

で、バンドユニット「田我流とカイザーソゼ」の作品を挟んで、ついにリリースされた3rdアルバムなんだけど、実に「ちょうどいい」のよこれが。
311直後で怒りも希望も明確だった前作と違って、どういうわけか社会も政治もより悪化してるし、田我流も作者も同じ36歳ですでに若者ではなくなってるけど、それでも何とか自分達らしくこの世界を生き残ろうや…!っていう、前作と比べたら表現方法が内向的なんだけど、その歯切れの悪い感じが実に「今」っぽいのよね。あの頃に比べてめちゃくちゃ混沌としてしまったわ、社会。
田我流が父親になったのも大きいわよねきっと。

でも田我流のリリシストっぷりは健在で、前作の「Saudade」を思わせる「Anywhere」、Young-Gのサイドキックも鬼なストレートに熱いアカペラ曲「Hands Up」からの情熱溢れる曲「Deep Soul」とか、最高ね。
歌詞も「感傷に浸るの後にしろ 感情の流れをアートにしろ」とか、これぞヒップホップ!これぞ田我流よ!(2019年4月リリース)

『Ride On Time』通販サイト
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服部昇大
服部昇大
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1982年、岡山県出身。2004年、『未来は俺等の手の中〜J.P. STYLE GRAFFITI〜』で、第67回手塚賞準入選。著書に『魔法の料理 かおすキッチン』全3巻、『ダークアクト』全1巻、『今日のテラフォーマーズはお休みです。』全6巻(全て集英社)。現在は「COMIC OGYAAA!!(コミックオギャー)」で『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』を連載中、単行本はseason10まで刊行中(ホーム社)。2017年に6代目作画担当に就任した「日ペンの美子ちゃん」の公式Twitterに掲載された漫画の単行本『6代目 日ペンの美子ちゃん』(一迅社)も発売中。

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